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コレクションしている仏像フィギュアでは不動明王が一番多いです──市川染五郎インタビュー #2

13歳の「衝撃の美少年」の意外すぎる素顔

2018/10/09

 2018年5月25日、早稲田大学大隈小講堂で、第81回逍遙祭「染五郎13歳、『ハムレット』を読む」と題した朗読イベントが開催された。坪内逍遙を記念する「逍遙祭」の一環として​​、早稲田大学演劇博物館が主催したものだ。希望者が殺到し、抽選となったが、大隈大講堂でのライブビューイングで同時中継されるほどの人気で、客席には制服を着た学校帰りの女子中高生の姿も目立った。

 祖父白鸚は1960年にテレビでハムレットを演じており、これが当時最年少記録の18歳。この記録を破ったのが父の幸四郎で、1987年に14歳でハムレットを舞台で演じている。その記録は、この日、13歳の染五郎によって塗り替えられた。

応募者が殺到した「染五郎13歳、『ハムレット』を読む」に登壇した染五郎さん 写真提供:早稲田大学演劇博物館 禁無断転載

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──はじめての朗読はいかがでしたか。それも、坪内逍遙の翻訳という非常に古風な文体でしたが、抵抗はありませんでしたか。有名な「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ(To be or not to be,  that is the question.)」は、逍遙訳では「世に在る、在らぬ。それが疑問ぢゃ」です。

染五郎 いえ、たしかに馴染みの薄い古語が使われてはいるのですが、歌舞伎の台詞に慣れているので、難しいとか言いにくいとは思いませんでした。坪内逍遙の訳は歌舞伎っぽいところがあるので、逆にやりやすかったです。でも、前日まで学校の中間試験だったので、それが大変でした(笑)。

──台本や構成は幸四郎さん作ですが、出来上がったのがほぼ前日だったと聞きました(笑)。

染五郎 はい(笑)。お稽古の時間がぜんぜん足りなくて、前日の夜に父とお稽古して舞台に立ちました。

──ハムレット以外のすべての役、ホレイショー、ポローニアス、クローディアス、ガートルード、墓掘りなど男女を問わず様々な役を陰マイクで演じられたのも幸四郎さんでした。

 この日は、染五郎さん、主催の演劇博物館の児玉竜一副館長、歌舞伎研究家の鈴木英一さんのトークショーに幸四郎さんが飛び入り参加し、「僕も若い頃は美少年と言われていた」「舞台での最年少記録は僕の14歳です」と張りあってみせて(笑)、イベントの発案者で親友でもある鈴木さんに「しつこい人ですねぇ」と言われ、会場を沸かせていました。労働基準法の中学生の就労時刻制限ギリギリの20時まで会場は大盛り上がりでしたね。

「染五郎13歳、『ハムレット』を読む」 朗読終了後、ライブビューイングで中継が行われた大隈大講堂にサプライズ登場した幸四郎さん(右)と染五郎さん 写真提供:早稲田大学演劇博物館 禁無断転載

歌舞伎役者でなかったら、絵描きになっていた

──染五郎さんといえば、とにかく絵がお上手なのにも驚かされます。小学生のときは美術クラブに入部していたんですよね。

染五郎 曽祖父(初代白鸚)は絵が好きで、歌舞伎役者でなかったら絵描きになりたかったそうですが、それは自分も同じですね。

『婦人画報』2014年5月号から連載「四代目松本金太郎のお絵かき日記(現在は『八代目市川染五郎のしばい絵日記』)」がスタートしたが、これは、同年1月号に同誌に初登場した染五郎(当時8歳)が何も見ずにすらすらと描き上げた『勧進帳』の絵を見た編集部がその画才に驚き、連載を申し出たものだった。

8歳の染五郎さんが何も見ずに描いた『勧進帳』の一幕 禁無断転載

──染五郎さんの絵は、衣裳のとても細かいところまで緻密に描かれていて驚かされます。

染五郎 自分が描く絵は、いつか自分が演じたいと思っている憧れの役が多いです。自分が好きで、今までに何回も繰り返し見ている演目だと、どういう衣裳か、どのように動くか、全部頭の中に入っているので、描きやすいのかもしれません。同じお役でもお家によって衣裳が違いますし、役者さんによって化粧もまったく違います。それをじっくり観察するためにも、自分は絵を描いているんじゃないかと思います。千住博さんが婦人画報付録のカレンダーの毎月の絵にそれぞれ感想を下さって、それはすごく嬉しかったです。

自分の部屋に仏像のフィギュアを並べて灯りを当てて眺めていた

──そして、13歳にして仏像のフィギュアを30~40体集めている「仏像マニア」でもあります。

染五郎 仏像でも、歌舞伎の見得をしているようなものがあるんです。歌舞伎には不動明王が出てきますが、自分は酉年なので、不動明王が守り本尊で、そんなところから興味を持ち始めました。

 歌舞伎にはひとつひとつの形に意味がありますが、仏像にも共通するところがあります。たとえば、『勧進帳』で弁慶が勧進帳を読み終わったときにする見得は、〈不動の見得〉と呼ばれていて、不動明王に由来するとも言われています。なぜ仏像が片足を少し前に出しているのか、なぜこういう印を結んでいるのか、調べてみるとすごく面白くて、歌舞伎といろいろ共通点があるんです。

 歌舞伎の荒事で足の親指を立てる所作がありますが、仏像にも同じように足の親指だけ立てているものがあります。そうすることによって、とても力強く見えて、躍動感が出るんです。

──仏像が片足を前に出したり、足の親指だけを立てているのは、「今まさに救いにいこうとしている」という表現であり、〈動き〉を表していると言われていますね。歌舞伎では「車引」の松王丸や梅王丸(『菅原伝授手習鑑』)、『矢の根』の五郎がピンと親指だけを立てる見得をします。どんな仏像がお好きですか。

染五郎 コレクションしているフィギュアでは不動明王が一番多いです。あと、毘沙門天のような鎧をつけた仏像も好きです。見るからに強そうで仏像のヒーローですから。自分の部屋に仏像のフィギュアを並べて灯りを当てて眺めてた時期もありましたけど、今は欅坂にはまっているので、マイブームってほどでもないかな(笑)。襲名で京都へ行ったら、三十三間堂の千体千手観音……千手観音が千体あるのですが、それが見てみたいです。