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日本で育った人材が日本で活躍するために大学への寄付は生かされる

寄付特集・遺贈[大学編]

世界的な大学間の研究競争が厳しさを増す中、大学への寄付は日本にどのような未来をもたらすのか。大学における寄付の現状などに詳しい大阪大学大学院経済学研究科の大竹文雄教授に聞いた。


大竹文雄(おおたけ・ふみお)
大阪大学大学院経済学研究科教授。大阪大学博士(経済学)、行動経済学専攻。同大理事として基金と寄付金集めの担当経験。著書に『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』(中公新書)など。
大竹文雄(おおたけ・ふみお)
大阪大学大学院経済学研究科教授。大阪大学博士(経済学)、行動経済学専攻。同大理事として基金と寄付金集めの担当経験。著書に『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』(中公新書)など。

━━日本で寄付をする人は増加傾向にありますが、どんな動機があるのでしょう。

大竹 人間が寄付する大きな理由の一つが、利他性━━つまり、誰かのために行動したいという思いです。利他性にも種類があり、相手が幸せになるのが嬉しいという『純粋な利他性』と、相手のためになる行為そのものに幸せを感じる『ウォームグロー』と呼ばれるものがあります。前者の純粋な利他性の場合、例えば寄付をした相手が貧しいほどに意欲が強くなります。対してウォームグローは、助けるという行為そのものが重要なので、相手の状況を問わずに寄付できます。

 このほかに宗教上の理由や節税、社会規範意識なども寄付の動機になります。特に高額所得者であれば節税のインセンティブは大きいですね。税金は使い道を選べませんが、寄付は自分である程度使い道を決められることも満足度を高めています。実際、国に相続税を払うくらいなら、縁のある大学に寄付したいという方は多くいます。

━━ 見返りがなくても幸せを感じられるのでしょうか。

大竹 人は寄付をすると幸福感を感じるという有名な研究があります。ハーバード大学のマイケル・ノートンらの研究です。一定額のお金を渡して、「自分のために使ってください」と伝えたグループと、「他人のために使ってください」と伝えたグループで比較すると、他人のためにお金を使ったグループの方が幸福度は高まっていたというものです。また、寄付額が多い人ほど幸福度が高いという分析結果もあります。面白いのは、人は自分が寄付をすると幸福になると予想していないということ。寄付をして初めて、自分の幸福度が増していることに気がつくんです。これは寄付をしてみないとわからない点ですね。

基金の運用益を拡大し日本の研究力を底上げする

━━ 大学へ寄付をする意義はどこにあるでしょう。

大竹 人類や社会全体のためになる研究を推し進めるのは、私企業には成しえない領域であり、まさに大学の使命です。少子高齢化などの社会課題を解決するイノベーションや、長期的な視野が必要な基礎研究は、そうした観点から生まれます。しかし国の財政が厳しくなるにつれて、大学への運営交付金は減額が続き、あまり授業料は引き上げられていません。つまり安定的収入が減り続けているのです。これは常勤の研究者や研究の補助的作業をする人たちの身分を不安定にします。特に若手研究者は長期的な視野の研究ができなくなり、国際的な日本の研究力の低下につながっています。

━━ 寄付金の活用は、そうした問題の解決策として期待されています。活発になってきたのはいつごろでしょうか。

大竹 日本の大学でも近年は寄付活動が活発になっています。もともと税金による国からの研究費などの助成は、目的に応じて使い切ることが求められるため、『貯金ができない』のが原則。国の支援が絞られていく中で、各大学が自主財源となりうる寄付金の受け皿整備に力を入れるようになりました。しかし、運用益で大学の研究・教育を改善し、常勤雇用者を増やすところまではまだまだ至っていません。海外の有名大学は、長年寄付活動に力を入れており、現在は莫大な寄付金をもとに基金を構築し、その運用益によって有名教授を雇ったり、研究費をまかなって競争力を高めています。

━━大学ではどのように寄付金を使っていくのでしょうか。

大竹 多くの大学は、寄付金の使途を選べる仕組みをつくっています。どんな目的でも構わないというものから、特定の学部、特定の研究、学生の奨学金、特定のクラブ活動など、寄付者の気持ちに応えられるようになっています。まずは寄付を検討している大学の担当者に相談してみるといいでしょう。

 世界各国は大学の教育研究費を増やしていますが、日本は横ばいで、世界との差は開く一方です。優秀な日本の人材は、海外の大学や企業に流出し始めています。日本で学んだ若者が日本で活躍できる体制をつくるべく、多くの方から大学への支援を賜れればと思います。

不動産や株式などの「みなし譲渡課税」が非課税になる手続きが迅速化

 不動産や株式など含み益のある財産を法人に遺贈した場合には、その財産を売った代金を遺贈したものとみなして譲渡所得税が課税されます。これを「みなし譲渡所得税」といいます。この納税義務は、特定遺贈の場合には実際に不動産などを取得しない相続人が負うことになるので、注意が必要です。
 相続した財産が公益目的事業に直接使われているなど一定の要件を満たすと非課税になりますが、承認を受けるまでに2〜3年かかるのが課題でした。2018年度の税制改正で、承認特例が設けられました。事前に遺贈先の法人が、行政庁が承認した基金を設定していれば不動産などの遺贈について、1カ月(株式等は3カ月)待てば承認を受けたものとみなされる仕組みです。細かい要件が多いため、必ず事前に専門家に相談しましょう。

●監修:全国レガシーギフト協会