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プロ13年目でキャリアハイ ヤクルト・井野卓という「キセキ」のような選手

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/17

 プロ野球も、2018年シーズンが終わり、東京ヤクルトスワローズは昨年からは想像が出来ないほど躍進してシーズン2位という順位でリーグ戦を終えた。プロ野球シーズンが終わるということは、幾人かのプロ野球選手にとっても、現役生活を終える時期でもある。気がつくと、私も現役を終えて1年が過ぎていた。私には、現役を終えてからの夢がある。そのために学んでいると、あっという間に1年が過ぎていた。この1年で学んできたことは、これから先の人生でも大きな意味を持つのではないかと、私は感じている。

 今年のスワローズは、昨年までの主力選手に加えて、青木さんが加入したことが戦力アップにつながったのは言うまでもないが、脇役の存在もかなり大きかったと思う。今回は、そんな脇役について書いていきたい。

元ヤクルト・今浪隆博氏

井野卓という「キセキ」のような選手

 大学卒でプロ野球選手になり、今年でプロ13年目を終えた選手がいる。井野卓という選手をみなさんはご存知だろうか? プロ12年目までの出場試合数は、62試合しかなく、安打も12安打という、まさに「GReeeeN」の代表曲のような選手だ。そんな井野卓が、2018年は47試合の出場というキャリアハイの成績を残している。

 井野卓は、2014年にジャイアンツから戦力外通告を受けて、2015年からヤクルトに加入した。 先ほども書いたように、大卒で寂しい成績では戦力外通告を受けても仕方がないように思う。それでも、長い間プロ野球の世界で生き残れるのにはそれなりの理由があると思う。その理由の一つが、彼の持つ人間性だ。人間性といっても、感じ方は人それぞれなので一概には言えないが、彼はとても魅力的だ。ユーモアのセンスこそ、そこそこしかないが、人の話を真剣に聞いてくれる。聞いてくれるとは、親身になって向き合ってくれるのだ。

 彼は、長いキャリアがあるのに絶対に偉そうにはしない。それどころか、こちらの感情まで汲み取って話を聞いてくれる。うなずいてくれる。それだけで、話を聞いてもらう相手は安心するし、ストレスも解消されるのだ。結果が問われるプロ野球の世界において、不安やストレスは常につきまとう。自分のことで精一杯になりがちな中、相手を思いやることができる。これは、小学校で習った道徳的には当たり前の話なのかもしれないが、なかなかできる人は多くはない。

「キセキ」のような選手、井野卓

 ヤクルトの投手で、すごくいい投手なのだが、なかなか勝ち星に恵まれず、成績を残せないでいた選手がいた。その投手とは、原樹理だ。あれだけいいボールを投げながら、成績がついてこないということは、「何か技術的な問題以外のものがあるのではないか?」と感じずにはいられなかった。そんな原樹理とシーズン途中からバッテリーを組むようになったのが井野卓だ。井野卓とバッテリーを組んでからの原樹理は、彼の本来持っている力に限りなく近い成績を収めるようになった。これは、決して中村が悪いとかそういうことではない。中村は、豊富な実戦経験に裏づけされた根拠のある発言ができ、その中で投手を引っ張っていく事のできるキャプテンタイプの捕手だ。井野卓とは、捕手のタイプが違う。

 捕手を変えることで、原樹理に何か変化があったことは確かだが、それは単なる気分転換なのかもしれないし、こればかりは本当にわからない。一つわかっていることは、人間は自分の行動すべてを意識して行うことは、非常に簡単ではないということだ。そういった意味でも、原樹理自身、自分にどのような変化があったのかをわかっていないのではないのかとも思う。だからこそ、井野卓とバッテリーを組むことで、気がつかないうちにリラックスして本来の力を発揮できているのではないだろうか。