文春オンライン

日本ハム・大田泰示と上沢直之、失敗という名の勲章

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/19
note

去年までだったら想像できなかったこと

 今年はシーズン中盤辺りから当たり前のように「エース」と呼ばれるようになり、初めての2桁勝利も挙げた彼でしたが、この試合では初回いきなり満塁ホームランを浴びたところから始まって、3回までに7失点という大炎上。簡単に言ってしまうと「背信投球」ですよね。

 ただ、よくよく考えてみると、「上沢直之がポストシーズンの最初の試合に先発する」ということそのものが、去年までだったら想像もできなかったなあとも思うのですよ。

 ファイターズが日本一になった一昨年、彼は右肘手術からの復活途上にあり、1試合も1軍で投げていません。去年は15登板で4勝9敗という成績。「故障を克服してよく戻ってきてくれました!」というのがまずあって、戦力として云々は二の次、三の次。

ADVERTISEMENT

 という数年間を経ての今年の「エース」です。

 ここにいるというだけで嬉しい、試合に出られなくて辛い思いをしてきたから。

 そんな2人が期待されたような結果を出すことができずに負けてしまった試合であり、そして結局この初戦を落としたことがファーストステージ敗退につながった訳でしたが、しかしそのことさえもが特別で貴重な体験、ある種の勲章のようなものだと思うのです。

 上のステージで失敗する、大舞台で結果を出せずに終わる、大事な試合の敗北の責任を背負い込む。

 それは、その場に立つことがなければ、そもそも絶対に経験することのないことですから。

 主力選手が結果を出せなければ、チームがポストシーズンを勝ち抜けなければ、観客席からは野次も飛ぶかもしれませんし「戦犯」なんていう言葉を使うスポーツ紙や週刊誌もあるかもしれません。あれは2012年だったか、「パ・リーグでファイターズだけが日本シリーズで勝てない」なんていうツイートやファンブログを複数見かけた記憶もあります。

 でも、じゃあ、そのプレッシャーがストレスになるから、選手は1軍の主力になれないままでいた方がいいのか、チームは日本シリーズに出られない方がよかったのかといえば、そうではない訳ですよね。

「エース」としてポストシーズンの最初の試合に先発した上沢直之 ©文藝春秋

 去年の文春野球コラムペナントレースで、えのきど監督(去年はチーム制ではありませんでしたが)が石井一成のことを書いた時の、文章の締めくくりはこうなっています。

《ワカゾーには失敗する権利がある。ワカゾーには挑戦する権利がある。》

 ルーキーだった去年の石井一成と全く同じようには、大田泰示も上沢直之もワカゾーだとはもう言えないでしょう。でも。

 大舞台での失敗を、むしろ新しい経験として糧にして行けるほどには、2人はまだまだ発展途上の「若い」選手だと思うのです。

※「文春野球コラム クライマックスシリーズ2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/9275でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

日本ハム・大田泰示と上沢直之、失敗という名の勲章

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー
文春野球学校開講!