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【新書の窓】ユニークな視点を読む

『戦国の陣形』『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』『竹島』『南海トラフ地震』『ユダヤ人と近代美術』

source : 文藝春秋 2016年4月号

genre : エンタメ, 読書

「陣形は動く城であった」。そう読者を誘うのは、乃至政彦『戦国の陣形』(講談社現代新書)。冒頭から有名な映画や大河ドラマの合戦シーンに異を唱える。「鶴翼の陣」などの定説に疑問を提起しながら、中世「定型としての陣形」は存在しなかったと説く。そこに鉄砲が伝来し、変化が起き、武田と上杉に現れた陣形とは何か――。関ヶ原の合戦や大坂の陣などを具体例に、その虚実を明かす本書は類書に乏しいユニークな研究だ。読後は合戦シーンを見る眼が変わる。

 石油ビジネスの専門家が日本近代史に切り込んだのは、岩瀬昇『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』(文春新書)。現在、旧満洲には幾つもの大油田が存在するが、関東軍がそれを発見できていたら日中戦争のみならず、先の大戦の帰趨さえ変わっていたことが分かる。石油を持たぬ国という点で日本は戦前と変わらない、と著者は強調する。石油の確保抜きに安全保障を語れないことが実感される。

 池内敏『竹島』(中公新書)は、日韓両国の文献資料などをもとに、多面的に竹島を巡る歴史的事実を詳らかにする。江戸時代、幕府が竹島を「異国の属島」とみなして渡海を禁じ破った者を死罪に処していたこと、一八七七年の太政官指令で「竹島外一島」が日本の版図外とされていたことなど、冷静に理解しておくべき日本側の“弱点”も。過熱しがちなこの問題だからこそ、しっかりと史実を知っておきたい。

 東日本大震災から五年を迎える。近年警戒される東南海・南海地震について一から学べるのが、山岡耕春『南海トラフ地震』(岩波新書)。マグニチュードやトラフといった基礎概念から始めて、地震発生から短時間で津波が到達する南海トラフ地震の特徴が解説される。特に海抜ゼロメートル地帯(濃尾平野)での堤防決壊という未経験の地震災害に備えなければならない、と著者は警鐘を鳴らす。いま多くの人に読まれるべき本。

 偶像崇拝を禁じたことで、絵画や彫刻の仕事に携われなかったユダヤ教徒。圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』(光文社新書)は、十九世紀以降に登場し始めたユダヤ系芸術家は、どのような思いをもって美術に関わってきたのかを描く。反ユダヤ主義に傾いたルノワールら印象派の仲間とたもとを分かったカミーユ・ピサロ、スターリン政権下で旧友たちが粛清され三人の妹も不審死を遂げたシャガールら、絵の中に自らの“祖国”を追い求めたユダヤ人画家たちの数奇な運命が大河ドラマのように綴られていく。(川)

戦国の陣形 (講談社現代新書)

乃至 政彦(著)

講談社
2016年1月20日 発売

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竹島 (実業之日本社文庫)

門井 慶喜(著)

実業之日本社
2015年6月4日 発売

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南海トラフ地震 (岩波新書)

山岡 耕春(著)

岩波書店
2016年1月21日 発売

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ユダヤ人と近代美術 (光文社新書)

圀府寺 司(著)

光文社
2016年1月19日 発売

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