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佐久間 文子
2016/06/30

【著者は語る】革命体験者の数だけ「革命史」ができるはず

『クロコダイル路地I、II』 (皆川博子 著)

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : エンタメ, 読書

皆川博子氏

  フランス革命とその後の時代を生きた若者たちの姿をダイナミックに描き出す。

「フランス革命は、成功した革命としていい点ばかり取り上げられますけど、その中を生きた人間一人ひとりにとっては非常につらい、苦しいこともあったでしょう。そのあたりを浮き彫りに書いてみたいと思いました」

 視覚に訴えてくる小説である。連載を依頼されたとき、ポーランドを訪れた時に見たパノラマ館のことが思い浮かんだという。そのパノラマ館をロンドンに置き、かねて興味をもっていた、革命への抵抗であるヴァンデ戦争やナントの虐殺を展示、人形にまじって本物の死体が発見され……という話を考えた。

「最初は、純然たるミステリーにするつもりだったんです。それがナントの虐殺を調べ始めたら、とても一言二言の説明じゃすまない。書き出したら、それだけで一冊になってしまって」

 前半の「フランス篇」で革命に翻弄される登場人物たちの姿が、後半の「イギリス篇」では復讐譚が主に描かれることになった。ブルジョアの家に生まれたローラン、貴族の従者ピエールの視点を軸に、貧しい美少女コレットや、三人をとりまく人々の過酷な境遇は、若い彼らを変えていく。

「小説の中にも書きましたけど、百人革命体験者がいたら、百通りの革命史ができるはずです。一人の視点からは一部分しか見えない。いくつもの立場に立つことで、革命のさまざまな部分が重層的に見えてくるだろうと思うんです」

 タイトルは、女にだまされた男がワニ人間にされてしまう、マンディアルグの『ポムレー路地』から取った。見世物、蝋人形、パノラマ館と、耽美的な情景がちりばめられた世界を、「罪と罰」という骨太のテーマが貫く。

「その時々で変わる法で定められた犯罪、というのは絶対的なものではない。だけどやっぱり、罪というものはある」

 運命が運び、連れ戻すところに、われわれは従おう。作中で繰り返されるウェルギリウスの言葉には、皆川さんの戦争体験が重ねられている。

「敗戦のとき私は十五歳でした。十五の女の子に何ができるか、と言ったら何もできないです。大人が言うとおりに動くしかなかった。そのときの感情は、コレットの行動に投影されていると思います。それでも運命は自分で切り拓いていくもの。その思いが、彼らの最後の決断につながっています」

クロコダイル路地1

皆川 博子(著)

講談社
2016年4月20日 発売

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クロコダイル路地2

皆川 博子(著)

講談社
2016年4月20日 発売

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