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ユニクロはいつまで下請け工場の労働者の「訴え」を門前払いするのか

このままではアパレルの世界潮流から落ちこぼれる

2018/10/16
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国が定めた最低賃金を下回るようになった

「ノルマが終わらなければ、午後6時、7時まで作業が続くことも当たり前で、遅い時には10時までかかることもありました。しかも、残業代は支払われません。ノルマが終わると、その日のボーナスということで、1万ルピア(73円)が各自に支払われましたが、時給が1万2000ルピア(88円)であるのを考えると、3時間も、4時間も働いており時給以下の1万ルピアでは、まったく割に合いません」(セナディー・プトラ氏)

 加えて、ユニクロの発注以降、工場が支払う賃金が、国が定めた最低賃金を下回るようになった。仕事は厳しくなり、賃金が下がるという状態に労働者の不満が高まった。

組合幹部に「不当な人事異動」と「解雇」

 工場にはもともと組合があったが、御用組合のようになっており、ユニクロの受注後の厳しいノルマや生産性の管理、未払いの残業代に対抗する実力がなかった。それらの諸問題に対処するため、セナディー・プトラ氏らが第2組合を立ち上げた。

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テディ・セナディー・プトラさん ©横田増生

 しかし、工場側は合法であるはずの組合運動を不当に弾圧した。

 セナディー・プトラ氏らが2013年10月に第2組合を立ち上げると同時に、彼を含む組合の幹部9人をジャカルタの本社に清掃係として異動させ、工場の労働者と直接会えないようにした。さらに、組合幹部たちは2014年7月、カラワチにある物流倉庫に異動させられた。その時、セナディー・プトラ氏だけが解雇される。

「工場が、組合運動に対して強硬な態度を取るようになったのは、ユニクロの注文を受けた後、労働条件が悪化してからでした。工場側は、繰り返し第2組合を作らないようにと、労働者を威嚇していました。私の解雇もまったく不当解雇です」

ドイツのメーカーは債権の一部を支払った

 インドネシアの労働移住省(日本の厚労省に相当)は2015年の工場の倒産後、工場は労働者に対する未払い賃金や退職金等を含めた労働債権が1000万ドル(約11億円)あると認定した。工場の資産などを売却することで、賃金分に当たる450万ドルが労働者に支払われた。ジャバ・ガーミンドができることはここまでであった。

 しかし、退職金などは残りの債権となり、約550万ドルが支払われていない。4000人の従業員数で単純に頭割りすると、1人当たり1375ドル(約15万円)。1カ月の最低賃金が2万円台である同国において、労働者にとっては半年分の給与を上回る額である。

 ジャバ・ガーミンドの元労働者たちは、残りの債権のうち、ユニクロの発注の割合である45%を負担してほしい、と要求しているのである。

 ユニクロのほかに、ゲリー・ウェバー(独)やs.Oliver(独)、ジャックウルフスキン(独)やTrutex(英)などが同工場に生産を委託していた。元労働者は、他の委託元にも応分の負担を求めて運動をしている。その結果、ジャック・ウルフスキンが2016年末、債権の一部を支払っている。しかし、ユニクロは今までのところ債権の支払いには一切応じていない。