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平沼翔太が打席に向かう――7月のマリン、永遠の夏の記憶

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/28

【えのきどいちろうからの推薦文】
 日本シリーズ第2戦の代打に「打率」さんを立てたいと思います。千葉県在住の女子高校生です。今年の文春野球コラム、フレッシュオールスター企画の落選者なんですよ。落選した原稿を読んで、僕はすごく面白いなと思ったんです。まず非常に硬質の(こなれていないとも言える)文体です。こんな文体の人あんまりいない。そしてそこに込められた意思ですね。野球や選手へ向ける愛情がひしひしと伝わってくる。これはじゃんじゃん書いたら良くなる人じゃないかなと思った。今回の原稿は何度かメールのやりとりして直してもらったんですけど、僕はかなり好きですね。確か最初の注文は「球場の季節感、匂いを原稿に込めてください」だったと思います。

◇ ◇ ◇

 曇天。すっぽりフトンでもかけたように雲が熱気を閉じ込めていた。暑い。7月7日、ZOZOマリンスタジアム、ロッテ14回戦。土曜日のデーゲームだ。ファイターズ打線はボルシンガーを攻略できず、反対に高梨裕稔は5回を投げて8失点、最終的なスコアは1対9になった試合。

 暑い。

 スタンドに陣取る我々ファンの額にも汗の粒が滲む。時折吹く潮風がレプリカユニホームをはためかせるが、夏のスタジアムでは気休め程度にしかならない。「ビールいかがですか」と声を張り上げる売り子さんの方にこそむしろ飲み物を勧めたくなる。

「暑いなぁ」と隣の男性ファンがつぶやく。ビジターのファイターズファンは元々少ない。一緒にいるだけで、共に闘う仲間、という認識をしてるのに、その上暑さまで共有している。悪くない、と少しだけ思った。

目の前で揺れていたアルシアの……

 フェンスの向こうの選手たちだって暑い。ふと選手もファンもチームなんだ、とどこかで聞き覚えのあるフレーズが脳裏に浮かぶ。ZOZOマリンスタジアムの外野スタンドとグラウンド。みんな一つのチームだから同じ暑さに耐えているんだと思うことにして……、

「アルシア選手、第8号のホームランです」

 びっくりした。心の準備がなかった。5回表、唐突にライトスタンドにパカーンとホームランが飛び込んだ。初回に2点先制され、こちらはまだ攻略の糸口すらつかめていない、と思って油断していたなか、飛び出したホームランだった。みんな、一瞬ポカンとなった後、大騒ぎのもみくちゃだ。ツインバットで手のひらでハイタッチ。バンザイバンザイ。

 私も仲間と飛び上がって喜んでいた訳なのだが、ふと前の席の男性が持つものに目を止めた瞬間、それどころではなくなってしまった。

「アルシアの生首!!」

 そう叫んでいた。生首。生首。アルシアの生首が揺れている。前の席の男性はラミネート加工を施したアルシア選手の顔写真をぶんぶん振り回していた。ロッテに1点差に詰め寄った喜びと、アルシア選手をラミネート加工してよかったという喜びが前の席で爆発している。それでぶんぶん振り回している。

「わー、生首!」「アルシアの生首!」、

 笑えてきて、お腹の痙攣が止まらなくなった。まわりの仲間たちも汗かきながら生首生首と大笑いした。