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終身雇用が崩壊しているのに35年ローンで自宅を買う怖さ

35年という時間の長さについて

2018/10/18
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スルガ銀行に、人はなぜ騙されたのか?

 一方で、日本の住宅ローンを巡る融資環境はとても恵まれています。なんせ、新規で住宅ローンを借入しようとすると、変動金利で年0.625%ぐらい、10年固定でも1%以下の水準で、国もまた、資産性の高い住宅ローンを借り入れできない人たちに対して住宅金融支援機構が固定金利の「フラット35」を提供。借入期間が21年から35年で年利はなんと1.410%です。

https://www.flat35.com/loan/flat35/index.html

 通常の事業性資金を借入したり、不動産を担保にお金を調達しようとすると、信用保証協会に入り連帯保証も添えて2.8%から4.0%ぐらいが相場ですし、仕事がなくて定期収入がなく信用状態の悪い人は金利がべらぼうに高い消費者金融に行かないとお金を借りられない状態になることもあります。それを考えると、庶民の資産形成において非常に低利で資金を貸してくれるこれらの住宅ローンは強い味方、であるはずです。

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 ところが、以前問題になったスルガ銀行やスマートデイズの「かぼちゃの馬車」、あるいはその他面白デベロッパーによるゴミアパート濫造投資や、この手の界隈で定番の投資性不動産を謳うワンルームマンション、あるいは坪330万円以上にも及ぶ湾岸立地のタワーマンションなど、いくら金利が安いと言っても支払いのシミュレーションで所得の2割を超えて元本と金利の返済に追いまくられるとかなりの勢いで生活が破綻することも考えられます。手取りが50万円の共働き夫婦が、将来35年間働き続ける前提で負担できるローン返済の上限はだいたい月10万円から12万円と見込むべきで、フラット35で頭金なしに物件購入費用を賄おうとするならば、4,000万円が手の届くマックスになるわけであります。

誰にも答えられない未来予想

 それもこれも、お前本当に35年間働き続けるんか? という問題に尽きるわけですよ。いや、石にかじりついてでもいまの会社を辞めない!! と決心したとしても、30歳で結婚して共働きして通勤1時間圏内のマンションを買おうとすると、三鷹より西、流山よりも茨城寄り、川崎よりもアレな地域の物件でないと子育ても含めて充分な広さがないだろという話になりかねません。また、30歳で35年ローン組んで、おまえ65歳まで夫婦でえっちらおっちら働き続けられる保証はある? と訊かれると、もうそれは誰にも答えられない未来予想になるわけであります。

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 そう考えると、日本で働くこと、子どもを産み育むことと、それを支える充分な住環境を、と思ったときに、想像以上にハードルが高いことが分かります。賃貸でいいや、と割り切ったとして、子ども部屋が欲しくなるライフステージや夫婦の転勤事情などにあわせて借り換えながら暮らしていくことになるわけですけど、資産になることはない賃貸料を一生払い続ける覚悟があるかどうかって話にもなります。貯金ができない、老後の資金も考えなければならない、子供の教育費は、といろんなものを考えて行ったとき、我が国の経済システムと人の人生にかかる費用のバランスの悪さに改めて気づくのです。