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日本中で“2倍長い”「連節バス」が増えている2つの「裏事情」

海外でよく見かける“あのバス”です

2018/10/22

幕張の次は7年後。藤沢市で導入されたワケ

 幕張地区のあと、連節バスが導入されたのは7年後。2005年、神奈川県藤沢市だ。慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)への通学客をスムーズに運ぶためだった。

 空白の時間があったのは、やはり法制度の壁が厚く、認可がなかなか得られなかったこと。さらにバス製造の海外メーカーも日本向けの車体のモデルがなく、連節バスそのものを用意することが困難だったためだ。つくばと幕張向けの車体を製造していた富士重工業がバスの車体製造を2000年に取りやめたことも大きかった。

湘南台駅と慶應大学SFCの間で運行される連節バス。乗客は学生主体で、朝の開講直前には150mほど人が並ぶことも……

 そのため2005年に藤沢市で導入された連節バスは、車体も含め完全に海外製のバスが導入されることになる。神奈川中央交通の湘南台駅と慶應大学SFCを結ぶ路線で、ドイツ・ネオプラン社製の「セントロライナー」が運行を担った。

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 神奈川中央交通の関係者は当時を振り返り、「海外の車両規格と日本の車両規格は大きく異なり、(ネオプランの)車両導入まではかなり苦労があった」と語る。それでも円滑に地域輸送を行うという使命と地元行政の交通計画の後押しを受け、なんとか運行開始にこぎつけた。

西日本を中心に全国11都市に広がる

 神奈川中央交通はこの後、神奈川県厚木市や東京都町田市で、駅から離れた大規模事業所・大学キャンパス・大規模団地を結ぶ路線に次々と連節バスを投入していく。

 さらに京成バスと神奈川中央交通は各地へ試験運行のために車両貸し出しを積極的に行い、連節バスの普及活動に務めた。その過程で三菱ふそうが窓口となり、同じダイムラーグループのドイツ・メルセデスベンツ製の連節バス「シターロG」を日本向けに特注するという販売ルートもできた。

 こうして「1台でも大きな輸送力を持つ」連節バスを導入する都市は着実に増えていく。冒頭でも紹介した通り、現在は西日本を中心に全国に広がりつつあり、岐阜市、新潟市、福岡市など11都市で路線バスとして運行されている。

東京都町田市内では大規模団地と駅を結ぶ

連節バスが増える「裏事情」とは

 近年導入が進んだのは普及活動や販売ルートができたことのほか、2つの大きな理由がある。

 1つは、新しい公共交通輸送システムのPRにおいて連節バスが広告塔になるためである。2015年に導入された新潟市が代表的だ。新潟市はこの年、バス路線網を大幅に改編した。郊外から中心部に向かう複数路線が重複していた箇所を整理。基幹となる路線に乗客を集中させることで効率的な輸送を行う計画を立てた。その基幹路線に、輸送力があり、見た目も目立つ連節バスが導入されたのだ。連節バスは新潟市の新しいバスの輸送体系における象徴として活躍する。

 もう1つの理由は運転士の不足だ。バス業界も人手不足は深刻で、日本中のバス会社が運転士の確保に悩まされている。最近、バスの後ろを見ると「運転士募集」の広告がずっと貼ってあるのを見かけるという人も多いのではないだろうか。

 特に駅から離れた場所に大学や大規模事業所があるところでは、朝のわずか1時間程度のピーク時に大量のバス、そして運転士が必要となる。そこに輸送力のある連節バスを導入して、少しでも必要な運転士・バスの数を減らすことで、他の路線に運行本数をしっかり配分できるように工夫しているのだ。こうした話は事情が事情ゆえに、あまり表だっては言われない。しかし連節バスは、運転士不足に悩む全国のバス会社が是非導入したい「ソリューション」であろう。