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「シミ抜きは闘いだ!」――さようなら。奇跡のクリーニング店「バンクリーニング」

2018/11/11

 2018年10月5日。東京でまた、ひとつの名店がその歴史に幕を閉じた。

 新宿区市谷台町。かつてフジテレビの城下町として栄えた都道302号線沿いに「バンクリーニング」はあった。通り過ぎた人の方が多いかもしれない。一見するとなんの変哲もない町のクリーニング屋。でも実はここ、名だたるファッション業界のプロたちから愛されてきた、知られざる名店なのだ。

 何を隠そう私も「バンさん」ファンの一人。6年前、クリーニング難民だった時期に雑誌「GINZA」の記事が目に止まった。某有名スタイリストさんが「奇跡の一店」として同店を紹介していたのだ。慌てて駆け込んで以来、数々の汗と涙の跡をきれいに落としてくれたバンさん……。もう大切な洋服を預けることはできないけれど、せめてこの店の記憶を刻んでおきたいと思う。

バンクリーニングの外観

「シミ抜きは闘いだ!」

 お店に行けば、奥様の須藤哲子さん(67)がエプロンを身につけ、「いらっしゃい~」と、ちゃきちゃきした笑顔で出迎えてくれる。哲子さんの他に、看板娘が二人。実娘の美里さん・美咲さんの美人姉妹が交代で店番をする。店奥の工場で洗いやドライの作業を黙々とこなしているのは、ご主人の須藤求(もとむ)さん(70)。この人の腕がもう、ピカイチなのだ。

須藤求さん

 常連客の間で、特に評判が高いのがシミ抜き。連日、専門店でもないこの店に、他店で落ちなかったシミつきの服がたくさん持ち込まれている。その秘訣に迫りたくて尋ねてみると、返ってきたのは意外な答えだった。

「シミ抜きはね、闘いなんですよ」

 え? 戸惑っていると、ニッと人懐こい笑みを浮かべて説明してくれた。

「俺は格闘技が好きなんだけど、それと同じで負けたくないわけ、仕事で。きれいになるものは、きれいにしてあげたい。だからうちにはシミ抜き目当てのお客さんが多いんだよね」