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赤坂太郎
2017/01/10

対ロ外交で雲散霧消した解散カード

安倍は外交、内政とも戦略の再構築の必要に迫られる

source : 文藝春秋 2017年2月号

genre : ニュース, 政治

カット・所ゆきよし

「中曽根康弘元総理は仰ぎ見る存在でしたから大変感慨深い。しかし、決して驕ることなく、中曽根総理のように平常心で1日1日に全力で当たり、結果を残していきたい」

 大勲位・中曽根を抜き首相在職日数が通算で1807日となった12月5日朝、官邸入りした首相・安倍晋三は待ち構える記者団の前で足を止め、神妙な面持ちで語った。「胸中に成竹あり」。表情とは裏腹に、大勲位超えに花を添える案を用意していた。

 安倍の腹案披露は念入りだった。同日午後5時前、国会内での自民党役員会冒頭、「『戦後政治の総決算』に挑むつもりだ」と述べた。中曽根政権のキャッチフレーズを唐突に口にした物言いに、出席者はいぶかしんだが、その真意は2時間後、自らが官邸でのぶら下がりで明らかにした。

「今月の26、27日、ハワイを訪問し、オバマ米大統領と首脳会談を行います。この際、オバマ米大統領とともに真珠湾を訪問します。犠牲者の慰霊のための訪問です。2度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。その未来に向けた決意を示したい。同時に、まさに日米の和解、この和解の価値を発信する機会にしたい」

 真珠湾は今も昔も太平洋における最重要軍事拠点で、米太平洋艦隊司令部が置かれている。1941年12月7日(日本時間8日)、日本海軍の機動部隊が奇襲攻撃し、約2400人の米国人が犠牲になった。日本の宣戦布告が1時間遅れたことで、当時のルーズベルト大統領は攻撃翌日の連邦議会演説で、将来「屈辱の日」として記憶されると訴えた。以来、長きにわたって日米関係のトゲともなってきた。

 中でも1177人が死亡した戦艦アリゾナの沈没は、米軍史上最悪の艦船被害の一つ。今も湾内に横たわる戦艦の上にアリゾナ記念館が建つ。この記念館を現職首相が訪問するのは初めてだ。戦後政治の総決算と肩肘を張るのも無理はない。ただ記念日に彩りを加えようとする余り、安倍政権らしい勇み足があった。当初、外務省は「現職首相が真珠湾を訪問するのは初めて」とアナウンスし、各メディアも一斉にそう報じた。だが、読売新聞が51年9月に吉田茂首相が真珠湾に立ち寄っていたと指摘。安倍も官房長官・菅義偉も注意深く「初」とは言及していなかったが、結局、菅が8日に「アリゾナ記念館で現職の首相が慰霊を行うことは今回が初めて」と軌道修正を余儀なくされた。政府関係者は「今の官邸は何事も『画期的だ』と演出しがちだ。官邸にゴマをする役人も含め、安倍政権の縮図だ」と嘆息した。

 安倍の支持基盤である保守層には、真珠湾慰霊が「謝罪外交になる」との懸念のほか、多くの民間人が犠牲になった無差別攻撃の原爆投下と真珠湾攻撃との相違点を指摘する声も根強い。外務省幹部は「中国に(南京にも追悼訪問をと)つけいる隙を与えかねない」と外交上のデメリットも指摘する。94年6月に天皇、皇后両陛下がハワイを訪問する際、アリゾナ記念館での献花を検討したが、保守層の反発で国立太平洋記念墓地に変更した経緯もある。

 それでも11月20日、安倍はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でペルーを訪れた際に、オバマに立ち話で、謝罪を伴わない訪問に同意を取り付けた。

 安倍「このような短時間でなく、4年間を総括するような会談をハワイで開きたい」

 オバマ「あなたにとって、強いられるものであってはならない」

 真珠湾慰霊の旅は「未来に向けたさらなる日米同盟強化の意義を世界に発信する」格好の舞台となる。4年間に及ぶオバマとの「集大成」であり、米国保守層の支持を受けるトランプ次期米大統領との関係構築への「架け橋」とする狙いだ。さらに、プーチン大統領との首脳会談で成果がなくても、それを打ち消す効果もあった。

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