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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『マダムのおかしな晩餐会』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

おとぎ話の結末

2018/11/04

 小説の依頼で、「王子様と結ばれてハッピーエンドではないものにしてほしい」とお願いされたことがあった。そう言われて、改めて考えてみると、「確かに、最近そういうストーリーをほとんど見ないですね」「ですよね」という話になった。

 たとえば『アナと雪の女王』では、「Let It Go(ありのままで)」と、『グレイテスト・ショーマン』では「This Is Me(これがわたし)」と、高らかに歌いあげている。どちらも、王子様じゃなく、自分自身と出会い、認めることがテーマ。痛みと苦味を伴う、現代的なハッピーエンドだった。

 さて、この映画は、笑いと苦味と痛み、そして爽快感のある、大人のヒューマンコメディだ。

 舞台は現代のパリ。高級住宅街に越してきた裕福なアメリカ人夫婦が、張り切って晩餐会を開く。ところが、手違いで、人数が不吉な13人になっちゃった! じゃ、いっそ1人増やしちまえと、いやがるメイドのマリア(スペイン移民)にドレスを着せ、むりやりテーブルにつかせる。

 マリアは、初めこそ怯えて静かにしていたが、生来の明るさと下町風の下ネタで客たちを魅了する。特に、隣にいた絵画鑑定人のスティーブンが、マリアに惚れ込む。

 2人が恋仲になると、奥様は「メイドの分際で!」と怒髪天。マリアは「人間としての価値は奥様と同じです」と反論する。仕事を失い、恋人だけが頼りになるマリア。だが、スティーブンは彼女のことをスペインの高貴な公女と勘違いしてて……?

© 2016 / LGM CINEMA-STUDIOCANAL-PM-Tous Droits Reserves

 人は、大人になるにつれ、出自、性別、経済力など、持っているもので自分を計るようになる。よほどのものを失わない限り(大失恋、失職、天変地異、病気……)、子供のころ知っていた、ただの“剥き出しの自分自身”と再び出会うことは、難しい。

 ラストシーンは苦くて美しい。これぞ、今描かれるべきハッピーエンドだと思いました。

INFORMATION

『マダムのおかしな晩餐会』
11月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
http://www.madame-bansankai.jp/

出典元

やっぱり知っていた「100万円」授受 片山さつき本人音声公開

2018年11月8日号

2018年11月1日 発売

定価420円(税込)