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男子チームで猛特訓 バドミントン・大堀彩が挑戦する2つの“壁”

東京オリンピックの出場枠は2つだけ

2018/11/05
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向こうが優勝すれば悔しい想いもある

 170cm近い長身サウスポーの大堀が繰り出す長い手足を活かした技術は、世界的に見ても一級品と言われる。それでも、世界のトップを窺いながら順調に歩を進めるライバル2人に対し、大堀自身は今季、まだ納得のいく試合は少ないという。

「正直(奥原、山口の2人は)すごく近い存在なので、同じ遠征に行って向こうが優勝すれば悔しい想いもあるし、その場面に直面したくない気持ちもあります。でも、それをしっかり見て、悔しいという気持ちがないと次に進めないと思うので。もちろんなかなか素直にそうは思えないんですけど、いま、2人に勝てていないこのポジションにいる以上は、そういう解釈をして上に進んでいくしかないのかなと思っています」

 

 大堀は、実力に加えてその端正なルックスも相まって、高校時代からメディアの注目を集め続けてきた。そんな周囲の過熱に浮かされるように、想いに結果がついて行かない葛藤にも悩まされてきた。

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「高校の時はテレビで密着していただいたりして、ちょっと自分の中で勘違いしていたのかもしれません。天狗じゃないですけど、そんなに結果も残さないままああやって取り上げてもらっていたので、少し悪い方向に行っていた気がします。メディアに取り上げていただくということは、それだけ努力が必要になるという風に思いますし、注目してもらえる分、もっと強くならないといけないんだと。普通だったらそう思うんですけど、高校の時はそこまで考えていなかったですからね」

 

変えられるのは自分自身の結果だけ

 そんな中で、かつて競っていたライバルたちに少しずつ、しかし確実につけられた大きな差――いまの大堀は、その距離を埋めるため、必死で自身の殻を破ろうとしている。

「ようやく考え方が変わってきたのは最近です。高校時代や社会人1年目には、『自分が勝ちたい』という気持ちが強すぎて……。逆に周りが勝ったら『悔しい』という気持ちしかなくて、そういう想いがすごくあったんです。でも、その気持ちが自分の中で空回りしていたというか。その人たちを抜くための自分なりの努力を全然できていなかったなと、いまは思います」

写真提供:トナミ運輸

 大きな決断のひとつが所属チームの移籍だ。大堀は2016年に前所属チームから、現在のトナミ運輸への移籍を決めた。当時、大堀はまだ高卒1年目だったということもあり、覚悟のいる選択だったことは想像に難くない。

「ちょうど1年間、前のチームにいたんですけど、大きな結果も出ず、周りと比べてしまって自分の中で『何かを変えないと』という葛藤はずっとあったんです。トナミに入って、拠点も関東から富山になって、環境もガラッと変わりました。1人暮らしもはじめてで、そういう生活の変化もあって、それも自分を変える新しいきっかけというか……。まぁ月の半分以上は東京か海外なので、そんなに富山にも帰れていないんですけど(笑)。

 でも、環境が変わっても、結局やるのは自分なんですよね。相手が誰というのはその次で、あまり関係ないことなのかなと思うようになりました。周りの努力や結果は自分では変えられないですし、変えられるのは自分自身の結果だけ。あんまり周囲は意識せず、自分のことだけ集中してやるようにしています」