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他人を陥れるために犯行現場に精子をバラまくことは可能なのか?

元NHK記者・弦本康孝被告は無実を主張するが……

2018/11/09

genre : ニュース, 社会

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「これは陰謀だ」と主張

 実は筆者はこれとそっくりな事件を過去に取材したことがある。2015年2月3日、千葉県鎌ケ谷市のパチンコ店駐車場で、遊技中の彼氏を待っていた女性(29)が車ごとさらわれ、同県船橋市内の空き地でレイプされたという事件だ。その後、犯人として逮捕された男(36)は、「これは陰謀だ。私に恨みを持つ人物が、私の精液を犯行現場にバラまいたからだ。私にはまったく身に覚えがない」と主張したのだ。

 その男が語る経緯はこうだ。

 事件の半年前、繁華街で中国人の男に「いい仕事がある」と声をかけられた。一緒に雑居ビルのスナックに入ったところ、出された酒を飲まされた途端、前後不覚に陥った。次に気付いた時は全裸でベッドにくくりつけられていた。

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「あなた、○○さんだね。トボけたってムダだ。あなたのことは全部知ってるよ。あなた、覚醒剤で捕まったとき、私たちの仲間のことをペラペラしゃべったね。それで私たち、大変迷惑しているんだよ」

 その男は中国製の鋭利な刃物のような武器を突きつけ、「私たちの仲間になるか、今ここで死ぬか、どっちか選べ」と迫ってきた。

「なる、なるなるっ!」

©iStock.com

奇妙な指示を受けるようになった

 すると、チャイナ服を着た女が出てきて、陰部に媚薬のようなものを塗られ、何度も手淫で射精させられた。

「あなたが裏切ったらあらゆる犯罪現場にこの精子がバラまかれることになるから。今や日本の犯罪捜査でDNA鑑定の信用性は絶対だ。あなたみたいに前科がある人間の言うことを警察は信用しないから」

 それ以来、自宅の郵便ポストに紙片が投げ込まれるようになり、奇妙な指示を受けるようになった。

「あるときは送られてきた郵便物を指定のあった場所に運び、またあるときは車の中で女を見張るだけのこともあった。またあるときはATMで金を引き出したり、夜逃げの手伝いをさせられたこともあった。報酬は1回2万円。自分が何をさせられているのかすら分からなかったが、ヤバイことに片足を突っ込んでいることだけは分かった」

 その後、男のマンションに詐欺の被害者だという人物が訪ねてきたり、人相の悪い男たちが玄関ドアを叩き壊そうとする出来事があったので恐ろしくなり、交際相手の女性ができたことから、その女性のアパートに逃げ込んだ。ところがその途端、鎌ケ谷市の事件が起きた。男は「自分はやっていない。その場所に行ったこともない」と訴えた。