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「#Me Too」を日本に定着させるために必要なこと

2019年の論点100

2018/11/16
『文藝春秋オピニオン 2019年の論点100』掲載

 過去の性暴力やセクハラ被害を自らカミングアウトしたり、被害者に寄り添う立場を表明したりする「#MeToo」運動は2017年秋以降、SNSを通じて米国から世界中に伝播し、日本でも広まった。その下地には、同年5月、元テレビ記者からの被害を訴えたジャーナリスト伊藤詩織さんの存在がある。顔と実名(当初は名前のみ)をさらけ出して告発する詩織さんの姿は、かつてハラスメントを受けながらその屈辱を心の奥に押し込んでいた多くの人たちに、インパクトと勇気を与えた。

 司法記者クラブでの会見で詩織さんは、食事後に意識を失い、被害に遭うまでのいきさつや、警察が準強姦(ごうかん)容疑で元記者を捜査したが逮捕しなかったこと、検察が不起訴処分としたため、検察審査会に不服申し立てをしたこと(同年9月に不起訴相当が決定)などを明らかにした。

 各社の報道は当初、腰が引けたものだった。検察が不起訴処分とした事件で個人の特定につながる報道をすることは、メディアの基準で言えば、極めて難しい。しかし、1.性被害者が顔をさらして告発するという「重み」に加えて、2.元記者が現職首相と近しい著名人で、3.一度出た逮捕状が、警視庁刑事部長(当時)の指示で執行を見送られるなどの事情があり、会見の事実だけ短く報じたり、元記者の反論と併記して掲載したりした社もあった。

伊藤詩織さん

 詩織さんは同年10月中旬、一連の経緯について記した著書『Black Box』(文藝春秋)を上梓。日本外国特派員協会で記者会見を開く。米国で「#MeToo」運動につながる最初の疑惑報道が出たのはちょうどそのころ。ニューヨーク・タイムズなどがハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏による過去30年のセクハラ疑惑を報道。女優のアリッサ・ミラノさんは「セクハラや性的暴行を受けた全ての女性が『Me too.』と書けば、問題の大きさを分かってもらえるのでは」とツイッターで呼びかけると、俳優やコメディアン、マスコミ関係者、政治家らに対する実名告発が相次ぎ、大きなうねりとなった。