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【新書の窓】違和感を見逃すな

『農本主義のすすめ』『応仁の乱』『クー・クラックス・クラン』『フランスはどう少子化を克服したか』『読書と日本人』

source : 文藝春秋 2017年2月号

genre : エンタメ, 読書

 大正から昭和初期、資本主義の浸透により農村が荒廃、疲弊していく状況に危機感を抱き、「天地自然を相手にしている農」を基本に据えた「農本主義」を訴えた人々がいた。宇根豊『農本主義のすすめ』(ちくま新書)は、ファシズムと混同され、戦後は忘れ去られていた農本主義の復活を試みている一冊だ。四十年前から「減農薬運動」を提唱してきた著者による土臭い言葉の数々は、資本主義的な価値観に違和感を抱く人たちの生き方のヒントともなるだろう。

 呉座勇一『応仁の乱』(中公新書)は、日本史上の大転換期となった応仁の乱の前後、そして十一年にわたる大乱の全貌を、経覚、尋尊という二人の興福寺僧による日記を中心とした資料を駆使して読み解いていく。応仁の乱の背景は複雑で理解しづらく、一般的には八代将軍義政の継嗣問題に大名・山名宗全、細川勝元が介入し勃発したとされる。だが著者は大和国を治めていた「畠山家の内紛こそが大乱の最大要因」と分析するなど、新しい視点を提供しつつ、幕府権威が失墜する過程を見事に描き出している。

 浜本隆三『クー・クラックス・クラン』(平凡社新書)は、トランプ米大統領の登場でにわかに注目される秘密結社「KKK」の実態に迫る。一般的に白い目出し帽にローブの集団が黒人をリンチするイメージが強いだろう。しかし、丹念に歴史を追った著者は、南北戦争後に誕生したKKKが真に抗おうとしたのは「北部から押し寄せる近代という時代の波」であったとする。KKKの存在は、時代の流れに抗うことしかできない人間の「弱さ」の象徴なのかもしれない。

 高崎順子『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)には、日本における少子化対策への貴重なヒントが満載。パリ郊外で二児を育てる現役ママの著者が、現地の実情を生き生きと伝えてくれる。特に驚いたのが、フランスには三歳から全入の無償の学校があり、それゆえ三歳以上の待機児童は存在しないこと。保育ではなく公教育――残念ながら日本の政治には欠けた視点だろう。

 日本に初めてもたらされた本は、四〇五年に百済から届いた『論語』と『千字文』。津野海太郎『読書と日本人』(岩波新書)は、その時点から現代に至るまでの日本人の読書の歴史を探究する。中世における平仮名の普及、江戸時代の流通制度の整備など読書人口拡大の背景を丹念に追うとともに、井上ひさし、加賀乙彦ら作家の著作を引用しながら、本を読むことの面白さに心奪われてきた人々の姿も丁寧に描き出している。(走)

農本主義のすすめ(ちくま新書)

宇根 豊(著)

ちくま新書
2016年10月5日 発売

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応仁の乱(中公新書)

呉座 勇一(著)

中公新書
2016年10月19日 発売

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クー・クラックス・クラン (平凡社新書)

浜本 隆三(著)

平凡社新書
2016年10月17日 発売

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フランスはどう少子化を克服したか (新潮新書)

高崎 順子(著)

新潮新書
2016年10月14日 発売

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読書と日本人 (岩波新書)

津野 海太郎(著)

岩波新書
2016年10月21日 発売

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