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高校ラグビー部で頸椎損傷「後悔はしていないが、事故後の生活にも関心を」

中村周平さんが自身の体験を語る理由

2018/11/13
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授業中、人形のようになったことがある

 谷さん自身も、男子マネージャーが「相手チームの情報を揃えていない」との理由で監督に怒られ、30発ほど殴られたのを見た。実際には情報を揃えていたため、監督にその旨を伝えると、反抗的な態度をとったとして、谷さんも怒られた。正座をさせられたこともあった。体罰も受けた。

「何もやる気が起きず、授業中、人形のようになったことがある。放心状態になっていた。ストレスが溜まって、イライラしていた。そんなとき、私は、夜逃げをしようと考えた。経済的余裕がないために、四国へ行こうと思った。寝る場所がなくても暖かいだろうと。でも、夜逃げしようとした前日、先輩に『お前、おかしいぞ。大丈夫か?』と声をかけられ、思いとどまった。私もあらゆるものを捨てて逃げ出そうと、場所から逃げようとした。しかし、亡くなった彼は、(自殺することで)環境から逃げる選択をした」

©iStock.com

「体罰がいけないのは、生徒の選択肢を奪うから」

 体罰やハラスメントを許容する学校や部活動の雰囲気があったというが、自殺事件の中に、体罰をしてはいけない理由が込められていると、谷さんは言う。

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「体罰がいけないのは、生徒の選択肢を奪うから。閉鎖的な空間や歪な上下関係の結果、顕著に現れるのが体罰だ。選択肢を奪う指導とは、思考するための自由な時間を作らせないということ。その上で、子どもが嫌う『恥』と『将来への不安』を背景に罰を与える。体育科の場合、部活をやめるということは退学を意味する。親を心配させたくないのなら、やめられないということになる。自責の念が強いと、結果として自殺、自死が生じる」

 聴講者の中には、体育教師やスポーツの指導者を希望する学生も多い。谷さんは「もし、赴任した学校で、体罰がある雰囲気だったら」という前提の話として、バスケットの練習の一つである「1 on 1」を例にあげ、生徒と1対1で向き合うことの大切さを説いた。

「まずは生徒の悩みや考えを肯定すること。ずっと否定され続ける中で、先生から肯定されるのは嬉しいこと。そして、自分らしくあることを訴えて。生徒たちは、学校の中の世界だけがすべてに見える。すぐに解決はできなくても、先生が生徒と向き合っていくことが大切。そのためには、先生自身が、自分の世界を持つこと、自分の価値観の中で楽しんでいること。学校や部活の中で密閉されるのではなく、空気の抜け道をつくる。信念を持って、向き合う。それだけで生徒にとっては救いになる」

 次回は12月13日、いじめ自殺や指導死についての研修となる。

高校ラグビー部で頸椎損傷「後悔はしていないが、事故後の生活にも関心を」

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