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日本で「ウイグル問題を報じづらい」3つの深刻な理由

2018/11/13
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「中国通」でも歯が立たない分野

ウルムチ市内のバザールで販売されていたスカーフとマネキン。ここは中東文化圏の入り口でもある。2014年3月筆者撮影

 最後に「3.他の日本人のウイグル・チャンネルの問題」は、様々な事情からあまり詳しく言及できないが、やはり浅からぬ問題が存在する。

 そもそもウイグル問題は中国についての一般的な理解に加えて、中国国家の少数民族政策・宗教政策やユーラシア史への理解、世界の民族問題への基本的なリテラシー、イスラム・トルコ文化への理解といった膨大な基礎知識がないと、なかなか全貌をつかめない。言語も中国語・英語・ウイグル語だけではなく、トルコ語やアラビア語ぐらいはできないと第一線の情報が入ってこない。

 なのでウイグル問題は、普通の「中国通」の人(筆者自身も含む)ではまず歯が立たない分野だ。中国の国土は広大で、北京や上海と新疆との距離は2000キロ以上も離れている。欧州でいえばパリ~モスクワ間にほぼ匹敵する距離だ。仮に北京や上海に詳しい人であっても、彼らが新疆を理解するのは、フランス在住者がチェチェンやモルドバの事情を理解するぐらい大変なのである。

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 むしろ「中国通」の人のほうが、身近な中国人のウイグル人への偏見(テロリストや泥棒が多い、犯罪をしても逮捕されない特権を持っている、中国国家が新疆を発展させてあげているのに騒乱を起こすウイグル人は恩知らずである……など)からダイレクトな影響を受けているので、認識をミスリードされやすいという問題すらある。

 いっぽう、たとえ中東やイスラム文化に精通した人でも、中国はイスラム圏全体から見れば辺境にあたるため、やはりウイグル問題については縁遠くなりがちだ。東西をつなぐシルクロードの民の問題は、日本人にとってかくも理解が難しいのである。

詳しい人が少なすぎる!

 ゆえにウイグル問題について、極端な政治勢力や新宗教勢力との関係を持たず、さらに現地情勢への文化圏規模での理解を持っていて人脈的なコネもある日本人の専門家は、人数がかなり限定されることになる。

 南米やアフリカの小国や、現地の特定の少数民族について詳しい日本人が少ないのと同様の問題が存在するわけだ。ゆえに、日本のメディアの関係者がこれらの問題を取材する必要が出た場合は、少数の専門家による細いルートになんらかの形でアプローチしていくしかない。

 だが、仮にこうした細いルートを担う専門家たちのなかに、情緒的に不安定なところがある人や、他者とのコミュニケーションが苦手な人が含まれていた場合は大変である。現地へのチャンネルが限られた分野だけに、そうした個人の個性に由来したトラブルが、取材全体のボトルネックになってしまう可能性があるからだ。

 もちろんウイグル問題は深刻で、広く報じたほうがいい問題だ。だが、日本国内の極端な政治勢力と距離を置くことや、さまざまな関係者とのコミュニケーションを取ることなどへのコストが大きすぎるとすれば、やはり報じるトピックとしての優先順位は下がり得る。中国は他にも多数の問題を抱えており、他に伝えるべきことも数多くあるからだ。

 国内外のウイグル人活動家が離合集散を繰り返したり、日本の政治勢力や新宗教勢力がウイグル問題を利用したり、その他もろもろの面倒な問題がグダグダと起き続けている間にも、新疆の人権状況は加速度的な悪化を続けている。中国の最深部で進んでいる強制収容所の建設や文化の抹殺は、とにかく心が痛い。

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