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孫への誕生日プレゼントは3000円――昭和天皇の知られざる「家計簿」

「なんて恐ろしい! こんなものは宮内庁の中でも、ごく一部の人しか知りませんよ。私に見せないでください!」

 ある宮内庁関係者は、声を震わせながらこう言った。

「こんなもの」とは、表紙に「内廷会計歳出予算概算要求書 侍従職」と書かれた、昭和44年度と45年度の2冊の分厚い文書のことである。どちらも、わら半紙にガリ版で刷られたものだ。

 そこには、購入予定の品名と、それらにかかる金額が、何ページにもわたって整然と並べられている。例えば45年度には以下のような品目がある。

〈背広/7着/単価65000円/要求金額455000円〉
〈ポータブルテープコーダー/1台/要求金額39800円〉
〈ヘアトニック/20本/単価500円/要求金額10000円〉
〈ベープマット/3箱/単価330円/要求金額990円〉

「内廷」とは天皇家や東宮家を指す。また「侍従職」とは宮内庁の中にあり、天皇・皇后に側近として仕える部署。つまりこの文書は、昭和天皇の生活に必要な品目の予算が書かれた、昭和天皇の“家計簿”とも言える史料なのである。ノンフィクション作家の奥野修司氏が発見した。

昭和天皇と香淳皇后

 天皇や皇族の活動を支える予算を「皇室費」と言う。

「平成30年度の皇室費は約98億6000円。この予算は、3つに分けられます。一つ目が公的な活動に使われる『宮廷費』で約91億7000万円。皇室のオフィシャルマネーで、宮中晩餐や園遊会、地方への行幸啓、施設整備などに使われます。二つ目が両陛下と東宮家の私的費用に使われる『内廷費』。法律で額が決まっていて、今年度は3億2400万円です。そして三つ目が、秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮家、高円宮家の私的費用の『皇族費』。これが合計で約3億600万円です」(皇室ジャーナリストの山下晋司氏)

 今回、奥野氏が入手した文書は内廷費に関するもの。皇室費の実態について、宮内庁が自ら詳らかにすることはないが、宮廷費に関しては情報公開法に基づいて開示請求ができる。ところが内廷費と皇族費は私的費用ということで情報公開法の対象外とされ、これまで使い道が明らかになったことはなかった。つまり皇室費の中でも、内廷費は特に“聖域”なのである。ちなみに、昭和44~45年当時の物価や内廷費の金額を現在のそれと比較して、これらの数字を5~7倍すると現在の貨幣価値になる。

内廷会計歳出予算概算要求書

 史料には興味深い項目が沢山ある。例えば、45年のものには〈お品料〉として、

〈要求金額7000円/東宮殿下御誕生日〉
〈要求金額3000円/浩宮御誕生日〉
〈要求金額2000円/礼宮御誕生日〉
〈要求金額1000円/紀宮御誕生日〉

 という科目が記されている。これは天皇から、東宮殿下(今上天皇)、浩宮(皇太子殿下)、礼宮(秋篠宮殿下)、紀宮(黒田清子さん)へのお誕生日のお祝いの品の金額だろう。ちなみに黒田清子さんは昭和44年に産まれたばかりだった。

文藝春秋12月号

 この他にも、「シャンプーや歯ブラシなどの日用品をどれぐらい使っていらっしゃったのか」、「どんな新聞・雑誌を購入されていたのか」、「香淳皇后の御洋服のお値段は」など、これまで詳らかにされてこなかった昭和天皇・皇后の普段のご生活を史料から読み解いた奥野修司氏の記事「昭和天皇の極秘『家計簿』」は、「文藝春秋」12月号で読むことができる。