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世界初・パーキンソン病患者への移植が実現 いま、iPS細胞に何が起こっているのか?

山中氏 ©文藝春秋

「iPS細胞の技術を患者さんに届けたい、届けなければならない」

 2012年12月、京都大学の山中伸弥教授が、自身が開発したiPS細胞(人工多能性幹細胞)でノーベル生理学・医学賞を受賞。ストックホルムで開催された記念講演で、冒頭のような思いを語っていた。

 山中氏が生み出したiPS細胞は、身体を構成する様々な組織や臓器の細胞に分化することができ、ほぼ無限に増殖するという特性をもつ。これによって、通常体の中から取り出すことが難しい神経の細胞などを比較的容易に作り出すことが可能になった。

 つまり、iPS細胞を使えば、事故や病気によって失われた身体の働きを取り戻せるかもしれない。「再生医療」への応用が大きく期待されたのだ。

実用化の動きが急速に……

 山中氏のノーベル賞受賞から、約6年――。

 iPS細胞の医療での実用化の流れが、急速に拡大していることをご存知だろうか?

 11月9日、京都大学はiPS細胞から育てた脳の神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植する臨床試験(治験)をおこなったと発表した。この試みは世界初となる。

「文藝春秋」12月号掲載の、田原総一朗氏による短期集中連載「ヒトは120歳まで生きるか」では、この治験の責任者である高橋淳氏に取材している。

高橋氏 ©文藝春秋

 パーキンソン病は、主に50代以降に発症する、手足の震えや体のこわばりなどが起きて徐々に体が動かなくなっていく難病だ。脳内には、「ドパミン」と呼ばれる神経伝達物質を生み出す神経細胞が存在する。その神経細胞が減少することで、パーキンソン病が引き起こされるのだ。

 高橋氏のチームは、iPS細胞からこの神経細胞を大量に作製し、注射を使って患者の脳に移植することで、症状の改善を図ろうとしている。

「お湯の量を元に戻す」

 取材中、高橋氏は自らの研究を「お風呂」に例えて説明してくれた。

「パーキンソン病の患者さんは、湯船の底に穴が空いてお湯が漏れていっている状態です。お湯の量が膝くらいになると寒くなる、つまり症状が出る。僕たちが今やろうとしているのは、そこにお湯を足して元の量に戻す作業です。だけど、穴が空いたままでは湯量はまた減っていく。一方、お湯が少なくなってから穴を塞いでも、寒いままです」

「つまり、お湯を足すことと穴を塞ぐことの両方が重要なのです。現在はパーキンソン病の原因を解明し、進行を止めるための研究が多く進められており、そういう研究にもiPS細胞の技術は大きく貢献しています。それらの治療によって穴を塞ぎ、僕たちの細胞移植によってお湯を注いで元の湯量にまで戻す。これが目指すべきゴールです。そうすると、パーキンソン病を発症しても、動けなくなるとか寝たきりになる人を限りなくゼロに近づけていけると思います」

文藝春秋12月号

 高橋氏の力強い口調は、iPS細胞によるパーキンソン病治療の、そう遠くない未来での実現を感じさせた。

 記事では他にも、iPS細胞の生みの親である山中伸弥氏、iPS細胞を使って難病・筋ジストロフィーに挑んでいる堀田秋津氏らを取材。彼らのインタビューを通して、iPS細胞治療の最前線を知ることができる。