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「総理退任で『絵』のパワーを感じた」田原総一朗が語る、仕事とアートとムンク

現代人がムンクに共感してしまう理由

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 19世紀から20世紀の激動の時代に活躍したノルウェー出身の画家・エドヴァルド・ムンク。「不安」や「孤独」など人間の感情を強烈に描き出した作品で知られているが、80歳で亡くなるまで、実に60年以上も絵を描き続けた画家でもある。そんなムンクの作品が、東京都美術館で2019年1月20日(日)まで開催される「ムンク展―共鳴する魂の叫び」で、あまりに有名な《叫び》をはじめ約100点来日中だ。

 

 60年近く現役のジャーナリストとして仕事をしてきた田原総一朗氏(84)は、一時は画家を目指し、現在も絵画を収集するほどのアート好き。ムンクの作品群と対面した田原氏に仕事とアートの関係や、ムンクの奥深い世界について聞いた。

少年時代は画家志望だった

――田原さんは、もともと絵がお好きだと聞きました。

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田原 実は、僕は子どもの頃、画家になりたかった。滋賀県出身なんだけど、小学校や中学校では近畿のコンクールで入賞したりもしていた。高校の美術部で絵がうんとうまいやつが後輩として入ってきてから、自分で描くのはやめちゃったんだけどね。

――やめてしまったんですか。

田原 やめちゃったけれども、その後、テレビのディレクターになることを選んだのは絵が好きだったことも関係あったのかもしれない。活字は「言葉」で、映像は「絵」でしょ。

――たしかに、視覚で伝えるという共通点があります。

田原 言葉も、映像も、表現のワン・オブ・ゼムなわけだけれども、人の表情やアクションをビジュアルで伝えられる映像はやっぱりおもしろいと思った。

 

総理大臣退任で感じた「絵」のパワー

――テレビのお仕事アートへの関心が生かされたことはあったのですか。

田原 はじめてシナリオや演出、編集を担当した岩波映画の「たのしい科学」では「ヌーベルバーグ」で行こうと思った。ヌーベルバーグはカメラを手持ちで左右に振ったり、アップにしたりロングにしたりして回し続ける撮影スタイルで、当時の流行の最先端だったの。ヌーベルバーグを代表する監督のゴダールの映画を借りてきて、真似して編集したりした。この回は評判が良くて、なにかの賞を取ったりした。

――そんな応用の仕方があるとは!

田原 僕が携わった報道がきっかけで、これまで何人か総理大臣が辞任に追い込まれたけど、これはテレビだから追い込まれたの。一番典型的なのは、橋本龍太郎。98年、「サンデープロジェクト」の生中継で出演した橋本龍太郎に、「税制改革をする」と発言した真意をガンガン突っ込んでいったら、絶句しちゃった。

 普通、絶句したところで終わるんだけど、僕はその絶句した橋本のアップを撮り続けろと言った。そうすると、目が泳いだり、汗をダラダラ流したりする様子が延々放送されるでしょ。翌日、新聞に「総理、迷走」って活字が踊って、直後に総理退陣に追い込まれた。それが「絵」のパワーなんじゃないか。