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ワシントン・ポストがスクープした「トランプ財団」の違法行為

トランプ大変 新・アメリカ大統領の正体を暴く #1

source : 文藝春秋 2017年2月号

genre : ニュース, 国際, メディア, 政治

1月20日の就任式で、正式に第45代米国大統領となったドナルド・トランプ。歯に衣着せぬ大放言を武器に、大方の予想を裏切って選挙戦を勝ち抜いたが、そんなトランプに対し、一貫して批判的な報道を続けてきたのがワシントン・ポストだ。選挙期間中の2016年には3カ月にわたり20人以上の記者を投入して徹底取材し、彼の生い立ちからビジネス哲学までを詳細に描いた評伝『トランプ』(邦訳は小社刊)を出版した。その著者であるマイケル・クラニッシュ記者率いるワシントン・ポスト取材班が、トランプ新政権の内幕を明かす。

(出典:文藝春秋2017年2月号・全4回)

当選直後にギアチェンジしたトランプ

 トランプは大統領選挙の投開票日、マンハッタンのホテルの宴会場で演壇に立った。今回、彼を迎えたのは、数千人の騒々しい群衆ではなく、数百人の聴衆だった。彼は原稿を見ながら勝利宣言をしたが、その口調は厳粛で、むしろ暗いものであった。

 それから48時間もたたないうちにホワイトハウスを訪れ、初めて現大統領と会談した。外国生まれだから大統領の資格は無いと、誤った攻撃を何年も仕掛けてきた相手だ。この時、ウィングチェアにおさまったトランプは、いささか恐縮した様子で頭を垂れ、口調もいつになく控えめだった。新たな役割を担ってからの数日間、彼は態度を和らげ、クリントン夫妻を「立派な人」と褒めることさえあった。「ヒラリーを収監だって?」、とんでもない。「夫妻を傷つけたくはない」と彼は言った。

 アメリカ大統領選挙史上、最も信じがたい勝利を収めたとたん、彼は、数々の集会で約束してきた通り、たちまちギアを切り替え、大統領にふさわしいと自らが思う、静かで落ち着いた話し方をするようになった。選挙戦では、同性婚を認める最高裁の決定を覆すと約束したが、それも否定した。「もう決まったことだから」と今は言う。「それでいいんだ」。さらに1100万人にのぼる不法移民を即刻、国外退去させるのではなく、犯罪を犯した200万人から300万人に限るとした。選挙戦中の自らの挑発的な主張を、文字通り受けとる必要はないと、彼は言う。「人々を動かすには、時にはある種のレトリックが必要なのだ」と。17カ月間にわたって怒鳴りちらしてきたのは、交渉の道を開いて納得できる結果を引き出すためだった、というのが今の立場だ。ドナルド・トランプは近々、合衆国第45代大統領に就任することになっており、これまで約束してきた通り、大統領らしくありたいと考えている。

トランプ財団の違法行為

©ゲッティ=共同

 ワシントン・ポストの記者デイビッド・ファーレンソールドは2016年の初めからトランプ財団に目をつけてきた。トランプが退役軍人の団体に100万ドルを寄付すると約束しながら、それを履行していないことを知ったからだ。ファーレンソールドの報道を受けて、トランプはその寄付を行ったが、ファーレンソールドはトランプのささやかな慈善活動を引き続き掘り下げていった。そして、ドナルド・J・トランプ財団による一連の違法行為を暴いた。同年9月には、その財団が2013年に違法な贈与を行ったことへの罰金として、内国歳入庁に2500ドルを支払ったことも突き止めた。

 その後もファーレンソールドは毎週のようにトランプ財団の不適切な行為を暴いていった。2007年にトランプは財団の資金2万ドルで、縦1.8メートルの自身の肖像画を購入し、2014年にも同じく財団の資金1万ドルで、縦1.2メートルの肖像画を購入した。連邦法は、慈善団体のトップが、その団体の資金で私用あるいは私企業のための物を買うことを禁じている。ファーレンソールドは現物を確認しようとした。縦1.8メートルの肖像画はどこにあるかわからなかったが、縦1.2メートルの肖像画の方は、マイアミ郊外にあるトランプのドラル・ゴルフコースのバーの壁に掛かっていた。そのバーは壁に絵を「保管する」ことでトランプ財団に貢献していると、トランプの選挙対策本部は言った。ファーレンソールドがそれを税の専門家に伝えると、専門家はこう返した。

「国税局の会計検査官を笑わせるのは難しいが、これはうまくいくだろう」

 ファーレンソールドの報道を受けて、ニューヨーク州司法長官はトランプ財団の捜査を始めた。それに続いて9月末には、ファーレンソールドは、トランプ財団が必要なニューヨーク州のライセンスを得ないまま、寄付を募ってきたことを報じた。数日後、司法長官はトランプ財団に、資金集めを一切止めるよう命じた。トランプの選挙対策本部は、司法長官の「政治的動機」を疑いながらも、財団が捜査に協力することを約束した。

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(翻訳=野中香方子)

 

トランプ

ワシントン・ポスト取材班 (著), マイケル・クラニッシュ (著), マーク・フィッシャー (著), 野中 香方子 (翻訳), 森嶋 マリ (翻訳)

文藝春秋
2016年10月11日 発売

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