文春オンライン

「里谷多英に憧れてた」劇作家・根本宗子が語る、モーグル断念からの“劇的人生”

6年の車椅子生活、中村勘三郎との出会い

note

こういうこと言うとますます賞から遠のくと思うんですけど……

——選評や劇評は気にするほうですか?

根本 選評や劇評はその人の好みが強いですから。どうかなあ、こういうこと言うとますます賞から遠のくと思うんですけど、私めちゃくちゃ劇評が嫌いなので(笑)。評論家を招待することもないので、この規模でやってる劇団で劇評書かれてないランキング1位だと思います、うちは。もちろん、上手な劇評もありますけど、変に小難しい評をされると、お客さんが離れるんじゃないかって思うし。演劇っていい悪いの得点が出るわけでもないので、そういう意味ではぼんやりしてますよね。ね、別にこういうの言わなきゃいいのに言っちゃうんですよね(笑)。

 

——演劇に限らず、アートはそういう世界でしょうね。

ADVERTISEMENT

根本 今、モーグルができる身体になったとしたら迷わず演劇やめて、モーグルに戻っちゃうかもしれないですね。まあそんなことはありえないからこんなきっぱり言えるんですけど。スコアを上げていく、そのわかりやすさが好きでしたね。

——モーグルで培った何かが、今の仕事に結びついてはいませんか?

根本 どうですかね。常に一つ前の作品より面白いものを作ろうという気持ちは自分の中にあって、その「自分と闘っていく」みたいなものはモーグルやってたときに近いのかもしれません。

ルーズソックスが履きたかった

——89年生まれですから、平成と同じ歳を重ねてきたわけですよね。根本さんにとっての「平成」の象徴って何ですか?

根本 なんだろ……。ギャル文化?

 

——ギャル文化。何歳くらいの記憶ですか。

根本 小学生かな。ルーズソックスが履きたかった。周りは遊びに行く場所といえば渋谷みたいな感じだったんですけど、私は混んでるところが好きじゃなくて、それほど渋谷には近づいていなかった。だから逆に象徴みたいに思うのかもしれません。ただ、好き嫌いは別として、ギャル文化みたいなメインカルチャーから目を離さないようにはしてますね、ずっと。

——いまされている活動は、いわゆるサブカルに属すると思うんですが、だからこそメインカルチャーを意識しているんですか?

根本 あくまで一般層に自分の作品を届けたいと思っていますし、自分と同世代をどんどん巻き込んでいきたいと考えています。そのためには、自分の作品に登場する人物に着せる衣装一つとっても、今を象徴するものを着せたい。「ここのブランドのこれを着させてほしい」とか、私は結構衣装さんと打ち合わせするんです。たぶん、他の演出家よりこだわりが強いと思います。本を書いてて煮詰まったときは街に服を見に行ってますし。

 

——そうなんですか。

根本 こういう服はどういう人が着ているんだろうって眺めたり、服屋によって違う会話のテンションを観察したり。お店でもフロアによって全然違うのが、面白いんですよね。