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トランプの「卑猥な発言」を明るみにした1本のビデオテープ

トランプ大変 トランプ新・大統領の正体を暴く #2

source : 文藝春秋 2017年2月号

genre : ニュース, 国際

トランプ新大統領の「トランプ財団」の違法行為(第1回参照)を暴いたワシントン・ポストの記者デイビッド・ファーレンソールド記者。彼が暴いたもう一つの特ダネが、1本のビデオテープだった。トランプ大統領を徹底的に追及したワシントンポストが暴く、新大統領の素顔の第2回。

(出典:文藝春秋2017年2月号・全4回)

ビデオテープの会話

 10月7日、ファーレンソールドのもとにある人物から電話がかかってきた。内容は、税に関することでも、チャリティに関することでもなかった。後にその人物から渡されたのは、1本のビデオテープだった。それは11年前にトランプが連続テレビドラマ『デイズ・オブ・アワ・ライブス』にゲスト出演するのを、芸能ゴシップ番組『アクセス・ハリウッド』がレポートした時に撮影されたビデオのコピーだった。ハリウッドの野外撮影場を訪れたトランプは、『アクセス・ハリウッド』のバスの中で、番組の司会者ビリー・ブッシュと卑猥な会話を交わした。カメラは車外を写しているが、マイクロフォンをつけた2人の会話をビデオは収録していた。最初の数分間、トランプはブッシュに、ある既婚女性を誘惑しようとしたことについて語った。「口説いたけど失敗してね。白状しよう……ファックしようとしたんだ。相手は既婚だったよ」。ビデオが撮影された時、トランプが3人目の妻メラニアと結婚してからまだ数カ月しかたっていなかった。

「やりたいことは何でもできるんだ」

 その会話からしばらくして、これからスタジオでドラマに出演する女優に会おうという時、トランプはブッシュに言った。

「あの女とのキスに備えて、チック・タック(口臭予防キャンディー)を舐めておこう。俺は美女を見たら、自然に引き寄せられるんだ。そしてすぐキスする。磁石みたいなものさ。ほんのキスだ。いちいち待つもんか――こっちがスターなら、やらせてくれる。なんでもできる」

 ブッシュはトランプを煽った。

「やりたいことは何でもできるんだ」

「プッシーをつかんでやる」

 トランプは言った。

「何をやってもいいんだ」

 ワシントン・ポストは同日午前11時過ぎにそのテープを入手した。ファーレンソールドはそのビデオの最も卑猥な部分を書き起こした文書を選挙対策本部に送り、コメントを求めた。ファーレンソールドのメッセージが届いたとき、トランプと側近のケリーアン・コンウェイ選挙対策本部長、ニュージャージー州知事クリス・クリスティ、共和党全国委員会委員長ラインス・プリーバス、選挙対策本部最高責任者スティーブ・バノン、副責任者デヴィッド・ボシーは、トランプタワーの25階でテレビ討論会の準備を進めていた。ボシーは自分の携帯電話でメッセージを読んだ。「問題が起きた」とあった。ボシーはそのメールをバノンに見せ、バノンは一読すると、携帯電話をコンウェイに渡した。トランプは文書に目をやると、大丈夫だ、わたしが言ったようには聞こえないはずだ、と彼らに言った。

 選挙対策本部のスポークスマン、ホープ・ヒックスはビデオを見せるようワシントン・ポストに求めた。ワシントン・ポストはビデオを送り、午後4時までにコメントをくれるように求めた。トランプはビデオで自分の声を聞き、否定のしようがないことを悟った。問題はどう対応するかだ。コンウェイは、トランプタワーに閉じ込められたラプンツェルのような気分だった。どうすれば、この新たな危機から逃れることができるのか。解決策を見つけたのはトランプだった。自分が謝罪する様子を撮影すれば、テレビ局は放送せずにはいられないだろう。

ロッカールームのジョークのようなもの

 選挙対策本部は、まずファーレンソールドにトランプの声明を送った。

「これはロッカールームのジョークのようなもので、何年も前の、個人的なおしゃべりだ。ビル・クリントンと一緒にゴルフ・コースを回った時、彼ははるかにひどいことを言った――こんなもんじゃなかった。このビデオで気を悪くした人がいるのであれば、謝ろう」

©ゲッティ=共同

 午後4時2分、ワシントン・ポストはファーレンソールドの記事をネット上で公開し、ほどなくしてそれはワシントン・ポスト・コム史上、最も読まれた記事になった。一時は、10万人以上の人が同時に読み、ニュースサイトの内部システムがつかの間、クラッシュした。

 その日の夜、トランプはビデオで遺憾の意を表明した。「これは確かにわたしの言葉で、わたしは間違っていた。だから謝罪しよう」、しかし彼はすぐ、攻撃モードになった。「わたしはいくつか馬鹿なことを言ったが、他の人の言動とは大違いだ。ビル・クリントンは実際に女性を傷つけ、ヒラリーは夫の被害者をいじめて攻撃し、恥をかかせ、威嚇したのだ」。夜遅く放映されたこのビデオに、非難の高波を防ぐ力はなかった。共和党員の何人かはトランプへの支持を撤回した。トランプに、潔く身を引いて副大統領候補のマイク・ペンスと交代するよう求める者もいた。しかし、選挙アドバイザーは最終的に、そのテープは多くの投票者を変えはしないだろうと結論づけた。多くの支持者は、そのビデオに記録されたトランプの態度にぞっとしたが、それでもアメリカを再び偉大にすることを彼に求めつづけたのだ。

それでも支持率を吹き返したトランプ

 ニューヨーク州シラキュース市のトランプ支持者シャノン・バーンズは、その会話を聞いて、彼が大統領になるべきだという思いをいっそう強くした、と言う。「トランプさんにも人間的な側面があることがわかったわ。ただそれだけのことよ」と彼女は語る。

「彼は億万長者で、わたしのような庶民とは別世界の人だと思っていた。でもこの一件で、彼もまた一人の男だということがよくわかったの。どんな男もそういう話をするものだって、みんな心の中では知っているわ」

 悪いニュースは増える一方だったが、投票は1カ月以上先で、騒ぎが収まる時間の余裕はあった。ニューヨーク・タイムズは、トランプは最長で18年にわたって連邦税を支払わなかった可能性がある、と報じた。同紙が入手したトランプの納税申告書類によると、1995年にトランプは9億1600万ドルの損失を申告しており、この損失計上により税額控除を受けたことがわかったのだ。また、過去に関わりのあった女性が次々に現れ、トランプに猥褻なことをされたと訴えた。しかし、その後の数週間でトランプの支持率は息を吹き返した。そして投票の11日前になって、FBIのコミー長官はEメール問題の捜査を再開すると発表し、今度はヒラリーが、ニュースのスポットライトを浴び、痛ましいダメージを負ったのだった。性的暴行についてのトランプのジョークと同等に、この爆撃はヒラリー支持者の投票率を抑え、トランプ支持者を再び活気づけるだろうと、トランプのアドバイザーたちは確信した。

第3回に続く)

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through Japan UNI Agency Inc., Tokyo

(翻訳=野中香方子)

トランプ

ワシントン・ポスト取材班 (著), マイケル・クラニッシュ (著), マーク・フィッシャー (著), 野中 香方子 (翻訳), 森嶋 マリ (翻訳)

文藝春秋
2016年10月11日 発売

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