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戦後最大の「国語」改革で「文学」が消滅する

2019年の論点100

2018/12/27

「深さ」ではなく、問われるのは「速さ」

 もちろん、大学入試で問われる内容はこれから大学で学ぶことそのものではなく、高校まで学んだことの総決算ではあるが、駐車場の契約書や交通事故に関するグラフの読み方は高校教科書ではほとんど扱われていない。それなのに出題できるということは、授業なしでも対応できるレベルの問題だということだ。実際、現役の高校の先生に尋ねてみたところ、新形式なので面食らうかもしれないが、ちょっとした対策をして慣れればすぐにでも満点がとれるだろうということだった。難しいとすれば制限時間だけだということだ。つまり求められているのは、手早い情報処理能力だということになる。

 そう、これはこれまでの「読解」とは明らかに異なる「情報処理」という新しい教科だとさえ言える。行間を読むような「深さ」ではなく、広い範囲から必要なポイントだけを拾い出してきて繋げる「速さ」が問われる教科だ。

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 こうした能力が無駄だとは思わない。論理力というにはいささか憚られるが、事実を繋げて一定の結論を導くための基礎となる力である。しかし情報処理はほんとうに基礎的な力であり、大学受験、高校よりもっと以前に培っておくべきものではないだろうか。先述のとおり、新テストは授業でとりたてて扱われなくとも、ものが「読める」高校生なら解けてしまう問題でしかない。

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 そもそも論理の基礎を鍛えるのに、無理に生活に密着した場を想定する必要はないのだ。現在教科書に掲載されているテクストを用いても、学習の手引きや教師の工夫次第で十分鍛えることのできるものである。

「文学」を知らない子どもたち

 しかし、入試改革よりおそろしいのは、この新問題に向けて高校の「国語」の内容が完全に変わってしまうということだ。詳細は錯雑を極めるためここでは踏み込めないが、新指導要領によれば概要は以下のとおり。

 まず現行高1配当の「国語総合」が2分割され、「現代の国語」と「言語文化」とになる。現在の「国語総合」の内容は、現代文古文漢文含めてほぼ「言語文化」に押し込められ、新しい「現代の国語」が「共通テスト」の新問題に対応するような実用文を扱う授業となるのだ。