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40歳になる井川慶は、なぜこんなに楽しそうなのか

文春野球コラム ウィンターリーグ2018

2018/11/28

 この男は今後どうなるのだろうか。12球団合同トライアウトが終わり、話題がFAに移りつつあるが、ある選手のことが気になって仕方がない。

 その男の名前は井川慶。阪神のエースであり、メジャーリーガーでもあり、数々の伝説を残した左腕だ。

 井川がオリックス・バファローズを退団したのが2015年。1年のブランクを経て関西の独立リーグ「BASEBALL FIRST LEAGUE」(以下BFL)の兵庫ブルーサンダーズに入団したのが2017年。その年は11勝0敗と完全に格の違いを見せつけた。しかし2018年は契約を更新せず、ブルーサンダーズの提携施設などでトレーニングを続けている。

「あの人は今」というような番組で取り上げられたり、ゲーム好きが取り上げられ、「e-SPORTS」に参戦か、という記事が出たりしたが、あくまでスタンスは「体が動くうちは現役」。その記事や番組では「今どれぐらい投げられるか」ということについてはあまり触れられていなかった。あくまで「現役」なのに。

マウンドで満足気な表情を見せた2018年の井川

 今年、私は二度マウンドに上がる井川を見た。一度目は9月3日のBFL選抜チームと台湾の社会人野球チーム「台中市台湾人寿成棒隊」との試合の合間に行われた「井川慶VS張泰山 日台レジェンドマッチ」。もう一度は11月4日に行われた兵庫ブルーサンダーズOBチーム対近畿医療専門学校との一戦だ。

 張泰山との対戦は全球ストレート指定がされていた。2球目の139キロのストレートをライトフェンスにぶつけられた。張泰山、本当に2018年で引退するの? というほどの綺麗な打球だった。あっさり終わってしまったが、井川の表情は満足気だった。

張泰山に投げる井川慶 ©SAZZY

 そして二度目のマウンドは予告先発として発表されていた。3回を6奪三振。振り逃げのランナーを1人許しただけで、チェンジアップを交えた往年の投球を披露した。そのあと投げる予定のブルーサンダーズのOB投手が「みんな井川さんの後に投げたくないと言っている。俺も投げたくない」と言うほどの出来だった。

 さらに7回に代打で登場。1打席目に四球を選ぶと2打席目にはレフト前ヒットを放った。まさか2018年に井川のヒットを目の前で観れるとは思ってもみなかった。そういえば昔から打席では顔の前でバントを決めるなどのミラクルを見せる男だった。

兵庫ブルーサンダーズOBチームとして登板した井川慶 ©SAZZY

 投球だけを見るとまだまだ全然出来そうだった。相手が学生だからと言って遠慮は全くなかった。それ以上に野球を全力で楽しんでいるように見えた。出塁した後フルカウントになり、打者が粘りに粘り何度も走らされる井川。ついには帰塁しながら苦笑する。試合中に笑う井川を見たことがないからかもしれないが、21年目を迎えたプロ生活をこれでもかと謳歌しているようだった。