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「公約の柱」さえも修正していくトランプの矛盾

トランプ大変 次期大統領の正体を暴く #3

source : 文藝春秋 2017年2月号

genre : ニュース, 国際, 社会, 政治

選挙期間中から次々と大統領としての適正に「疑問符」がついたトランプ(第1回第2回参照)。それでも根強くトランプが求められるのは何故なのか。ワシントン・ポストが、変容するアメリカ社会とトランプの公約の変遷に迫った。(出典:文藝春秋2017年2月号)

公約の半分も遂行しない?

 この選挙は、階級間の戦いであると同様に、歴史に残るほど不人気な2人の候補者の闘いとなった。(全体の投票率は、1996年以降の大統領選で最低だった。2012年に比べて、ラテンアメリカ系住民ではわずかに高く、黒人ではわずかに低かった)。トランプに投票した人の多くはその理由として、具体的な政策に惹かれたわけではなく、トランプが自らをエリート層に対抗する立場に位置づけ、庶民に味方しようとしてくれたからだと言う。トランプが政策の目玉として何度も繰り返した、メキシコとの国境に壁を建設するという公約でさえ、支持者にとっては優先事項ではなかったらしい。出口調査によれば、投票者の大多数は壁の建設に反対で、10人のうち約7人は、不法移民の大半は合法的な居住者になる機会を与えられるべきだと述べた。不法移民をすべて強制送還するというトランプの宣言に同意したのは、4人に1人だった。選挙に勝って間もなく、トランプはその主張を微妙に変えた。壁を建設するという考えは曲げなかったが、一部はフェンスで代用すると語ったのだ。側近になったギングリッチ元下院議長は、トランプは壁を作るという公約の半分も遂行しないだろう、と言う。

「おそらくメキシコに壁の費用を払わせることにはならないだろう。だが、あれは選挙の策略としては優れていた」

 選挙後1週間もしないうちに、トランプは、犯罪歴のある不法移民をすみやかに強制送還するという考えを示したが、不法に入国しながらも現在は生産活動に従事して暮らしている、はるかに多くの人々の扱いについては、先送りにする意向で、それらの人々を「すばらしい人たち」と呼んだ。

抗議があがらない理由

©ゲッティ=共同

 マスコミは、このような方針の転換を即座に公約の撤回と決めつけたが、トランプに票を投じた人々は抗議の声を上げなかった。彼らは概して、自分たちが選んだ人物に選択の余地を与えたいと思っていた。トランプが相手側と交渉し、必要なら、公約の柱であっても妥協していいと彼らは考えている。トランプは変革の象徴であり、彼らは30年以上にわたってひたすら変革を求めてきた。ロナルド・レーガン、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、そして今は、究極の反逆者にして、ならず者のアウトサイダーであるトランプに、その票を投じた。トランプは彼らが求めていた男なのだ。たとえトランプがヘッジファンドで働く人間や金融界の大物を登用したとしても、彼らが離れることはない。彼らは、トランプならワシントンの頑固な蒸気船の向きを本当に変えられる、と信じているのだ。

トランプ帝国の矛盾

 トランプは選挙後の方向転換を背信とは捉えなかった。この瞬間にたどり着くために、すでに彼は、人生を大幅に方向転換してきたのだ。選挙戦中は、オバマケアを撤廃すると繰り返し訴えたが、今はそれを「修正」するつもりだと言う。連邦議会の共和党上層部は、新たな医療保険制度を立案して可決させるには数年かかるだろうと述べた。トランプはオバマケアの、既往症がある人も保険に加入できるという条項や、26歳まで子どもが親の医療保険を利用できるという条項は継続したいと述べた。しかし、この次期大統領は、全国民に健康保険への加入を義務づけ、未加入者には罰金を科すという前提条件などをオバマケアから排除した場合、その恩恵の費用をどうやって捻出するかについては、語らなかった。

 選挙運動中のトランプは、当選したら何が起きるかについては、あまり考えていなかった。人事問題を重視させようとする参謀の助言は無視した。また、成人した子どもたちに家業を継がせると言っていたが、トランプ帝国と公務の区別という倫理的な問題は、棚上げにしていた。さらに彼は、保有資産を白紙委任信託にするのではなく、イヴァンカ、エリック、ドナルド・ジュニアにその支配権を譲ると言ったが、後にその3人の子どもを政権移行チームに入れた。選挙戦では、ヒラリーは私企業と公務を混同していると批判し続けて来たが、自らもたちまち同じ矛盾を引き起こしたのだ。

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(翻訳=野中香方子)

トランプ

ワシントン・ポスト取材班 (著), マイケル・クラニッシュ (著), マーク・フィッシャー (著), 野中 香方子 (翻訳), 森嶋 マリ (翻訳)

文藝春秋
2016年10月11日 発売

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