昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

クラシック音楽で、豊かな社会を【1】

アマチュアオーケストラの音が、地域の力を呼び覚ます。

2018/12/20

PR

東京や大阪などの大都市を除き、日本でオーケストラの演奏会が日常的に行われている都市はごくわずか。それはプロに限らずアマチュアオーケストラを含めても同じこと。欧米ほどクラシック音楽が暮らしに浸透していない日本において、地方都市を中心に演奏会を開き、音を奏でる楽しさ、音楽を聴く喜びを全国に広げる地道な取り組みを追った。

◆◆◆

石州赤瓦が印象的な川本町の街並み。(写真提供:川本町)
石州赤瓦が印象的な川本町の街並み。(写真提供:川本町)

 澄み渡る高い空に濃厚な緑と色づき始めた秋の葉が映える10月の日曜日、島根県の山間(やまあい)にある小さな町でクラシックコンサートが開催されようとしていた。場所は松江市から車で2時間程かかる邑智郡川本町。人口約3300人ながら、人口の約1/3が入る大ホールがある。というのも、この町にあった川本高等学校(現在の島根中央高等学校)は全日本吹奏楽コンクールで優勝経験がある音楽の強豪校。山間の小さな町ながら、“音楽の町”を宣言しているのだ。しかし、川本町でも少子高齢化により音楽に親しむ「人」と「交流の機会」が減りつつある。

山間の町は雲海に包まれることも。
山間の町は雲海に包まれることも。
演奏会が行われた島根県邑智郡川本町の悠邑ふるさと会館。深い山間のなかで一際目立つ立派なホールだ。
演奏会が行われた島根県邑智郡川本町の悠邑ふるさと会館。深い山間のなかで一際目立つ立派なホールだ。

 今回、川本町で演奏会を開いたのは、松江を拠点に活動する山陰フィルハーモニー管弦楽団。同楽団は1973年に山陰地方で初めて発足したアマチュアオーケストラで、1991年に第一回島根県文化奨励賞、1993年に地域文化功労者文部大臣表彰を受賞するなど伝統・実力ともに山陰を代表するオーケストラだ。「私は出雲高校の出身ですが、当時、川本高校とは全日本吹奏楽コンクールの出場を競い合う間柄でした。音楽に理解のある川本町をより盛り上げたいと思い、今回の演奏会を決めました」と団長の加藤幹雄さん。とはいえ、広い県内を大所帯で移動し、公演を行うことは想像以上に大変なことだという。「私たちは地域にクラシック音楽を広げるという使命を持っているので可能な限り多くの移動公演を行いたいと思っていますが、実際には資金的にも人的パワーも足りません。そんな私たちの夢を叶えてくれたのが、トヨタコミュニティコンサートという仕組みでした」

約70人編成の生オーケストラの音を聞く機会は、地域の人にとっては貴重な体験となる。
約70人編成の生オーケストラの音を聞く機会は、地域の人にとっては貴重な体験となる。

企業が支えた地域の音楽活動

一人ひとりの心の中に眠っているアートが目を覚まし、それが響き合って支え合う社会が育まれていく。トヨタが目指すそんな“いい町・いい社会”づくりへの想いを、「arts in hearts」と いう言葉に込めて描かれたロゴマーク。
一人ひとりの心の中に眠っているアートが目を覚まし、それが響き合って支え合う社会が育まれていく。トヨタが目指すそんな“いい町・いい社会”づくりへの想いを、「arts in hearts」と いう言葉に込めて描かれたロゴマーク。

 トヨタ自動車とアマチュアオーケストラとの出合いは約40年前。〝音楽を通じて地域文化の振興に貢献〟できることを模索するなかで出合ったのがアマチュアオーケストラ連盟だった。以来、1981年にトヨタコミュニティコンサート(TCC)としてスタートして37年。日本を代表する作曲家であり、現在トヨタコミュニティコンサートの音楽監督を務める三枝成彰氏は、音楽家の置かれている現状や企業の支援についてこう語る。「日本はヨーロッパなどに比べるとプロのオーケストラが少なく、音楽家として就職できる人はほんのひと握り。それゆえにセミプロのようなアマチュアオーケストラ活動が盛んでレベルも高く、全国で2000団体くらいが活動しています。ただ、やはりアマチュアですから資金的には恵まれているとはいえず、そうした状況に手を差し伸べてくれたのがトヨタ自動車でした。企業が文化支援を行うこと自体は珍しくはありませんが、これほど長く一企業が音楽を支援し、そして社員自らが企画から公演当日まで深く関わる例を私はほかに見たことがありません」

当日は開演の1時間ほど前から続々と来場者が集まった。来場者を出迎えるのはトヨタの販売店スタッフ。
当日は開演の1時間ほど前から続々と来場者が集まった。来場者を出迎えるのはトヨタの販売店スタッフ。
山陰フィルハーモニー管弦楽団団長
加藤幹雄さん
山陰フィルハーモニー管弦楽団団長
加藤幹雄さん

 TCCには著名な指揮者やソリストと共演するなどもっとも難易度の高い『チャレンジ公演型コンサート』をはじめ、生演奏を聴く機会の少ない地域や施設を訪れる『移動・訪問型コンサート』、生演奏を聴く機会の少ない人を招待する『招待型コンサート』の3つの形態がある。今回の『トヨタコミュニティコンサートinかわもと 山陰フィル ふるさとコンサート』は2つ目の移動・訪問型。演奏する山陰フィルハーモニー管弦楽団はTCCとの縁が深く、今回は1984年の初演から25回目、下部組織の山陰フィル・ジュニアオーケストラも入れると32回目の開催となる。これまで日本を代表するヴァイオリニストの千住真理子さんや川井郁子さん、ピアニストの小曽根真さんなど名だたるプロの音楽家とも共演し、山陰地方にクラシック音楽を広げてきた。「山陰フィルにとってTCCに巡り合ったことは確実にひとつの転機といえます。普段、共演することのないプロの音楽家の方と演奏会をする感動や喜びはもちろん、移動公演を増やせたことは非常に大きなこと。隠岐島でTCCを開催したこともありますが、自力では隠岐島に行けなかったと思います。TCCを開催することで団員も増え、演奏技術も確実に上がりました。企業の支援を受けた演奏会はほかでもやってきましたが、曲目の要望などオーケストラ側の意見も聞いてくれますし、本社や販売店スタッフもいっしょになって演奏会をつくり上げていこうという感覚がもっとも強いのがTCC。今年で45周年を迎えましたが、今の山陰フィルがあるのはTCCのおかげです」(加藤団長)

 
 
前日、当日ともに数時間かけて入念にリハーサルをする山陰フィルのみなさん。
前日、当日ともに数時間かけて入念にリハーサルをする山陰フィルのみなさん。