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ドナルド・トランプ「二つの顔」

トランプ大変 次期大統領の正体を暴く #4

source : 文藝春秋 2017年2月号

genre : ニュース, 国際, 政治, 社会, メディア

ワシントン・ポストによる膨大な取材で明らかにされたのは、トランプ財団の違法行為(第1回)や、卑猥な発言の数々(第2回)、そして変節する公約(第3回)といった、大統領として「不適切」すぎる言動だった。果たして、ドナルド・トランプはみだらな好色漢なのか、奔放な変革者なのかーー。(出典:文藝春秋2017年2月号 全4回)

エリート層を解体する

 政権人事にとりかかったトランプは、これまでと同様に忠誠心を重視した。選挙戦を通して自分の味方になってくれた人に、褒美を与えようとしたのだ。また、共和党の上層部と手を組むか、あるいは党に背を向けてホワイトハウスに反逆者を集めるか、という議論に終止符を打とうとはせず、その両方を同時に始めた。共和党全国委員会委員長のラインス・プリーバスを首席補佐官に選んだが、その一方で、選挙対策本部の最高責任者をつとめたスティーブ・バノンを、首席戦略官および上級顧問に起用し、プリーバスと同等の地位においた。

  バノンに政治経験はない。彼はニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の前会長で、そのサイトは、オルタナ右翼(アメリカのネット右翼の総称)、ナショナリスト、白人至上主義者、反協調組合主義者に人気で、その人々はトランプの支持者になった。バノンはトランプに政治活動の土台をもたらした。それはエリート層に対抗しようとする一連の考えやスローガンで、アメリカの中産階級の不満を反映するだけでなく、グローバル化やテクノユートピア主義者の支配、イスラム過激派、高学歴の人々の傲慢さに対抗しようとする世界的な潮流を受けてのものだった。バノンはトランプに、この選挙にはより重要な目的がある、それは、金融界、メディア、そして共和党も含む政界の、エリート層を解体することなのだ、と繰り返し語った。バノンは長年にわたって、共和党の大物を厳しく非難してきたが、今、その人々とともに働くことになったのだ。政権の発足という重要な仕事に直面したプリーバスとバノンは、互いの考えは同じだと断言した。

 しかし、選挙から1週間もたたないうちに、共和党と、誕生したばかりの政権移行チームでは、さまざまな問題が噴出した。政権移行のために雇われたロビイストは、役目が終わると追い出され、人事や政策(例えばロシアとの関係をリセットするか、あるいはプーチン政権と安全な距離を保つか)を巡っては議論が絶えず、さらには、バノンの即時辞任を求める声まで起きた。

物議をかもす人選

 トランプの人事のいくつかは、政権が共和党の伝統的なイデオロギーを踏襲することを示すのが目的のように見えたが、一方で、物議をかもす人選もなされ、それは政権が型破りのものになることをはっきり語っていた。トランプが司法長官に選んだアラバマ州のジェフ・セッションズ上院議員は、30年前に連邦判事に指名されたものの、人種差別的な発言をしたとして上院の承認を得られなかったという、いわくつきの人物だ。トランプが国家安全保障問題担当大統領補佐官に選んだ元陸軍中将のマイケル・フリンは選挙戦中に、イスラム教徒を恐れるのは「当然だ」と言ったり、ヒラリー・クリントンを「未成年者との性犯罪」と結びつけようとする嘘のニュース記事をツイートしたり、ヒラリーは「イスラム教のテロリストへの仲間意識からヒジャーブをかぶっている」と非難したりした。

ドナルド・トランプの奇妙なツイート

 勝利を収めた後、「イスラム教徒の入国禁止」の計画について説明するページが、トランプのウェブサイトから消えた。それを受けてニュースでは、「我が国の議員が実情を把握するまで、イスラム教徒の米国入国を全面的に禁止する」という公約に関して、新大統領は態度を和らげたらしい、と報じられた。しかし、その後、トランプ陣営は、ウェブサイトを復旧したと発表し、イスラム教徒入国禁止の主張がサイトに再掲された。トランプが当選した後、それに抗議して、数千人からなるデモ隊が通りを行進した。トランプはツイッターに、彼らは「プロの抗議者で、マスコミが煽ったのだ。……きわめて不当だ!」と書いた。数時間後、まったくトーンの違うツイートが現れた。

トランプ当選に抗議する人たち ©ロイター=共同

「昨夜、少人数の抗議者集団が、偉大なわが国に対する熱い思いを表明したのは素晴らしいことだ」

 2つのツイートのあいだに何が起きたのだろう? どちらのツイッターが、ハンドルネームが示す通りの本物のドナルド・トランプなのか? スタッフがトランプの携帯電話を無理やり奪って、外交辞令に過ぎないメッセージを送ったのだろうか?

 この選挙戦でアメリカ国民は、トランプのあるがままの姿、本能に操られる荒々しくみだらな本質を見た。それを恥ずべき好色漢と見た人もいれば、胸がすくほど自由奔放な変革者と見た人もいた。今、次期大統領はトランプタワーの中で、あるいはニュージャージー州に所有するゴルフクラブで、公職への就任を目指す大勢の人々と会っているが、テレビに目を向ければ、臨海都市やカレッジタウンで、トランプに強い反対票を投じた人々がデモを組み、「わたしの大統領ではない!」と叫んでいる。また、次期副大統領のペンスがブロードウェーで人気のミュージカル、『ハミルトン』を観に行った折りには、カーテンコールで主演俳優の1人が短く辛辣なメッセージを読み上げた。「わたしたちは多様なアメリカ人です。あなた方の新政権がわたしたちや、わたしたちの地球や、わたしたちの子どもを守ってくれないのではないかと恐れ、心配しています」と。その数日後、テレビのトークショーに出演したペンスは、アメリカ人はこの劇を観に行くべきだと熱心に勧めた。『ハミルトン』の観客の中には、来場したペンスにブーイングする人もいたが、「自由とはそういうものだ」とペンスは語った。しかし、トランプはツイッターで、ペンスは俳優から「いやがらせを受けた」。その俳優に「非常にすばらしい人間に対して、きわめて不作法だった。謝罪しろ!」と要求した。トランプは、その俳優たちを見かけたら、また謝罪を命じる、と念を押した。

「ただやるだけだ」

 トランプは、自分はどんな危機も乗り切る方法を本能的に知っている、と豪語する。ヒラリーの選挙運動には、資金と人手と真剣さと経験があったが、トランプの選挙運動にあったのはドナルド・トランプだけだ。しかし彼はこの選挙で、かなりの数の有権者を動かした唯一の候補者だった。今やトランプは誰にとっても冗談などではなくなり、国民の多くを狼狽させ、あるいは困惑させている。この1年以上にわたって彼は、アメリカは不正なシステムに操られ、牽引され、破壊され、歪められたと言ってきた。さらに、アメリカは犯罪歴のある移民とイスラム教徒のテロリストによって弱体化された、と断じてきた。今、彼は、そのアメリカの分裂を修復したいと語る。今、彼は、初めから重荷を背負わされ、身動きがとれなくなっている。その重荷とは、自らがアメリカ社会の各層に注ぎ込んだ疑念であり、責任転嫁であり、1960年代以来アメリカが見てきたなかで最もあからさまな人種間の反目である。そして今、彼は、今こそ一つになる時だと言う。

 トランプは、選挙運動中に見せてきたイメージを変えて、大統領執務室にふさわしいスタイルを見つけなければならないと悟っている。「これからは礼儀正しく振る舞う」と、選挙後の週末に出演したテレビ番組『60ミニッツ』で語った。

「だが、それは状況による――場合によっては、不作法にならざるを得ない時もある。世界に目を向け、さまざまな国が、わが国を食い物にしているのを見て、わたしはこう言う。誇りを持って言う。アメリカ・ファーストだと。それは、我々が今やっていることではない。我々は失ってしまった。この国を失いそうになっている。我々はこの国を失いそうになっている。だから、わたしはこの選挙に勝ったのだ。わたしは感じが良いだけのつまらない人間にはなりたくないし、多くの場合、わたしは……」

 彼はその先を語らなかった。トランプ大統領は、どんな政治を行うのだろう? これまでのキャリアを通じて自分の心にあったのは「俺はドナルド・トランプだ」という自負だけだったと彼は言う。だから、他人が損をしても、どうでもよかった。これからは自分のためではなく国のために働く、と彼は誓った。これまでそんな生き方をしたことはないと本人も認めているが、今、彼はその方向転換をしようとしている。その転換をどう行うかを詳しく語ることはできなかったが、彼は言った。

「ただやるだけだ」

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through Japan UNI Agency Inc., Tokyo

(翻訳=野中香方子)

トランプ

ワシントン・ポスト取材班 (著), マイケル・クラニッシュ (著), マーク・フィッシャー (著), 野中 香方子 (翻訳), 森嶋 マリ (翻訳)

文藝春秋
2016年10月11日 発売

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