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連載クローズアップ

もし本部長が突然赤ちゃんになったら……『赤ちゃん本部長』が教えてくれること

竹内佐千子――クローズアップ

 株式会社モアイ営業部の頼れる武田本部長が、ある朝突然、赤ちゃんになってしまった。とはいえ普通に喋れるし、中身はそのまま。部下がサポート&育児をすれば、なんとか仕事はできる! 「ベビモフ」で連載中のギャグ漫画『赤ちゃん本部長』が話題を呼んでいる。作者の竹内佐千子は、リアルな日常を描く作風で知られていたが……。

「藤子・F・不二雄先生が大好きなので、私も“すこしふしぎ”な話を描いてみたかったんです。本当のSFではないので、本部長はなんで赤ちゃんになったのか、みたいな説明は漫画の中では一切ありません。今のところ(笑)」

 第2話のエピソードに、この漫画が引き起こす笑いが凝縮されている。赤ちゃん本部長は、その姿で社長と初対面し職務継続を申し入れる。「身体に多少ムリをしてでも仕事をするつもりです」。それに対して社長は、「その身体でムリをしてはいかん!!」「身体を酷使して良い結果など出ん!!」。赤ちゃんという絶対的な弱者を会社に闖入(ちんにゅう)させることにより、その場所が全員強者を前提にして作られていることを明らかにする。それを風刺し、笑いに変えている。

第2巻が発売中(講談社 700円+税)

「漫画として面白いかどうかだけを考えていたので、社会的なテーマについて描くつもりはあんまりなかったんです。ただ、本部長は社内の立場的にも強者としてずっと生きてきました。そういう人が赤ちゃんという弱者になったことで、本部長自身もそうだし周囲の人々も、感じるものが自然と出てくるはずですよね」

 先頃発売された第2巻収録の一篇では、新キャラの橘部長が、部下達にセクハラやパワハラ、ポリコレ発言のチェックを受ける。部下達から渡されたメモには、こう記されていた。〈1.知らない世界を否定しない 2.自分が正しいとは限らない 3.無理に理解しようとしなくていい 4.よくないことを言ってしまった後は謝る〉。

「私自身はLGBTQのLで、マイノリティとしてずっと生活してきました。私や友達に対してひどいことを言ってくる人たちが、こういうことをちゃんと思ってくれたらいいのになぁという願望ですね。私は36歳なんですけど、若い子たちの間で流行っていることに対して、知りもせず否定しそうな時もあるんですよ。自分がやられてきたことをそのまま、下の世代にやるわけにはいかない。このメモは、自分への戒めでもあります」

 笑いというオブラートに包まれた力強いメッセージが、なにより魅力的だ。

「同じようなことを現実で言っても、ケッで終わっちゃう。本部長が赤ちゃんになってしまうような世界で出てくる言葉だからこそ、すんなり聞きやすいのかなぁと。かわいいは正義、ですね(笑)」

たけうちさちこ/1982年、東京都生まれ。2005年、第3回コミックエッセイプチ大賞受賞。恋愛コミックエッセイでデビュー。2017年より『赤ちゃん本部長』の連載を開始。11月に第2巻が刊行された。主な作品に『ハニー&ハニー』『わたしが女の子を好きになった日』『2DK』などがある。

赤ちゃん本部長(2) (ワイドKC)

竹内 佐千子(著)

講談社
2018年11月22日 発売

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取材・構成 吉田大助