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未来の「戦争」はどうなる? AI主導、ついていけない軍人の現実

小谷賢が『フューチャー・ウォー』(ロバート・H・ラティフ 著)を読む

2018/12/03
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『フューチャー・ウォー 米軍は戦争に勝てるのか?』(ロバート・H・ラティフ 著/平賀秀明 訳)

 戦争の歴史は兵器の技術革新の歴史でもある。こん棒から刀、弓から鉄砲、そしてミサイルや核兵器に至るまで、人類の武器に対する熱意は飽くことがない。では将来の戦争はどういった様相になるのだろうか。本書では極超音速機やレーザー兵器など、米国国防総省で研究が進められている最先端の軍事テクノロジー、そしてあらゆる種類のセンサーを身に付け、薬物によって戦場でストレスを感じないような兵士までもが紹介される。まるでSFの世界のようだ。AIが主導するドローン同士の戦いに至っては、もはや人間の介在する余地はほとんどないだろう。しかし軍人であり、技術者でもある著者によれば、ハイテクが戦争の問題を解決してくれるわけではないという。

 著者が警鐘を鳴らすのは、技術進歩のスピードが速すぎて、ほとんどの軍人がそれについていけないという事実と、米国社会の戦争への無関心に対してだ。サイバー領域ではさらにその傾向が顕著であり、将来の戦争とは専門性の高い少数の兵士が、世界の辺境地やサイバー領域において、人知れず戦うことだとされる。今や米軍の中心を占めるのは白人以外のマイノリティであり、多くの米国人にとって軍隊は縁遠い存在となりつつあるそうだ。

 今後さらに技術が進めば、戦場でAIが自主的に決定し、人間がそれに従う可能性も現実的に生じてくるだろう。我々も車を運転する際、ナビが割り出した最短ルートに従うことが普通であるが、同じように戦場から遠く離れた基地で、軍から委託された民間のパイロットがゲーム感覚でドローンを操縦し、AIが指示した地点にミサイルを撃ち込むような戦いも現実のものとなりつつある。

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 戦争とは従来、人間同士のせめぎ合いであったはずが、ハイテク化によって戦争から倫理観や人間性が失われつつある。戦争は残酷なものであるがゆえに、人々がそれを忌避してきたことを忘れてはならない。

Robert H. Latiff/2006年、米空軍を少将で退役。現在は企業や大学、政府機関のコンサルタントをつとめる。ノートルダム大学では顧問委員会議長、特任教授に就任。現役時代は空軍長官の幕僚をつとめた。

こたにけん/1973年、京都府生まれ。日本大学危機管理学部教授。専門はイギリス政治外交史、インテリジェンス研究。

フューチャー・ウォー: 米軍は戦争に勝てるのか?

ロバート・H. ラティフ(著),平賀 秀明(翻訳)

新潮社
2018年9月27日 発売

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