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現役引退・ホークス城所龍磨が教えてくれた“待機する男”の生き方

文春野球コラム ウィンターリーグ2018

2018/12/03

 ホークスひと筋で15年間プレーした城所龍磨外野手が11月30日、ヤフオクドームで会見を開いて現役引退を表明した。

「戦力外になってから次の球団の道を探して頑張って来たんですけど、僕の中で11月いっぱいで声がかからなければ現役を引退しようと強く決めていました」

 プロ野球の厳しさを感じずにはいられない。まだ33歳。自慢の脚力も強肩も決して錆びついたわけではなく、ホークスのハイレベルな「枠の争い」からほんのわずかの差で漏れただけだと感じていた。

忘れられないCSでの凄まじい活躍

 今季は41試合、昨シーズンに至っては2試合しか出場機会がなかった。ただその昨年、クライマックスシリーズ・ファイナルでの凄まじい活躍でホークスを救ってくれたのは忘れられない。

 楽天に2連敗して迎えた第3戦。城所は「2番センター」でスタメンに大抜擢されたのだ。シーズン無安打男のまさかの起用に、実は試合前の記者室では失笑があちこちから聞こえてきた。しかし、城所は「待ってました」とばかりに大活躍を見せてくれたのだ。

 初回はきっちり送りバントを決めて早々の逆転劇を演出すると、第2打席では則本昂大から右翼線二塁打を放ってその後の内川聖一の3ランにつなげた。続く3打席目も則本から左翼線二塁打を記録すると、守備では5回先頭のウィーラーの左中間最深部への大飛球をスライディングキャッチ。攻守にわたるスーパープレーでホークスに初勝利をもたらし、過去実績から「突破率0%」と言われた逆境を見事に覆すきっかけを作ってくれたのだった。

「短いイニングだからこそ緊張感がある」

 キドコロ待機中。

 通算716試合の出場に対して打席数は511しかない。出番の多くは、勝利目前の守備固めや代走だった。

 本音を言えばもっと打って活躍したかっただろう。それが野球選手の本能である。しかし、城所はこのように話していた。

「自分が試合に出ているのは短いイニング。だけど、だからこそ緊張感がある。変な汗も出てきます。精神的にタフじゃないと相当キツイと思います。代走でも、僕が起用される意味は、まず盗塁を期待されているということ。逆を言えば、相手は絶対に走られてはいけない場面。『失敗してもいいから思い切っていけ』という言葉は、僕には当てはまらないんです」

 ベンチで出番を待つ。待機と言ったが、もちろん待ちぼうけて座っていたわけではない。長い間ずっと特別な役回りを務められたのは、準備を絶対に欠かさなかったからだ。

 だから城所は頼れる選手だった。

 球場スタンドから見えない、テレビ中継にも映らない試合中のダグアウトの裏側。中盤を迎える頃になると、空いたスペースを見つけてはストレッチを始めるのが常だった。出番を察すると通路を何本かダッシュする。いつ名前を呼ばれてもその瞬間に100%の力を出すためだ。城所にとってはそれが当たり前の事だった。

 だから先輩に可愛がられた。

 引退会見では松中信彦氏が花束を持ってやって来た。トライアウトの前には川﨑宗則氏が練習のパートナーを務めてくれたという。後輩にも慕われ、やはり引退会見では福田秀平外野手も労いの花を手にして駆け付けた。

城所龍磨の引退会見(左は松中信彦氏、右は福田秀平) ©田尻耕太郎

 そしてホークスファンにも深く愛された。

 普段の言動から実直さが伝わっていたのもあるだろう。あのムネリンが可愛がる後輩だからすごくいいヤツに違いないと感じたファンもいたかもしれない。