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連載むらむら読書

ひと目を気にせずマイルールを突き進む最高な「低み」人にむらむら――犬山紙子「むらむら読書」

2018/12/07

 ここ最近かなり忙しくしております。これまで本を読む時間だった新幹線移動中も原稿を書くようになり、ちょっと辛い毎日。ああ、不倫している主人公が不穏な空気を察知した1番気になるところで止まっているあの小説、読みたい! でも、そんな忙しい中でこそ読む本というのもありまして、それが『ライムスター宇多丸も唸った人生を変える最強の「自己低発」 低み』です。自己啓発じゃあありません、自己低発です。もうこの時点で最高。

 宇多丸さんファンならこの本は「あ、ウィークエンド・シャッフル」の! とわかるかと思いますが、ラジオのコーナーが本になったものです。1エピソードごと短時間で読めて、それでいてブフォッと笑え、いい感じに気が抜ける。私は忙しいと気持ちも張り詰めて余裕もなくなりイライラしがちで、その矛先は夫に向くわけです。それじゃあまりにも夫がかわいそう……そんなわけでこの本はムラムラと湧くイライラを鎮める本となります。

 そもそも「低み」とは本書によると「他者に不快感を与える可能性があるが、法律を遵守し、自己完結しているため、具体的な問題は起こらない行為、もしくは考え方のこと」とのこと。そのエピソードは「極度の倹約家で、靴に穴が開いたらガムテープをぐるぐる巻きにして補強し続け、いつのまにか、靴がガムテープの塊と化していたT君」だったり「ソフトコンタクトレンズをゴミ箱に捨てるのが面倒で食べて処理するG君」だったり「豆腐は水気を完全に切ると濃厚で美味しくなることを発見し、ペット用のトイレシートを使って豆腐の水分を抜く投稿者」など。なんとなく「低み」がなんたるか伝わったんじゃないでしょうか。私には「他人の目を気にすることなく決してカッコよくないマイルールを突き進む人たち」というふうに映っています。そして、意図せずこの本で自分でも想像できなかった多様性を目の当たりにすることになります。他人の低さと触れ合うことは、自分にいつの間にか生まれていたしょうもないかりそめの高みに気がつかされることでもあるんですね。

©犬山紙子

 これまで夫と昼食を共にする時、料理を待つ間はお互い別々のことをしていたのですが、この本を買ってから「これ低いから読んでよ」と渡してはお互い笑い、そして最近周りの低かったエピソードを語るなど夫婦のコミュニケーションが生まれております。私たち夫婦円満の秘訣がかなり低いような気もしますが、そもそもそんな高尚な夫婦でもあるまいし、我々夫婦にしっくりくるのがこの『低み』なのです。