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「奇跡としか言いようがない」 ベイスターズ・大和が振り返る、藤川球児との“最後の1打席”

文春野球コラム ウィンターリーグ2021 大和インタビュー#2

2021/01/30
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 2020年10月31日。観客入場者数の制限が緩和された横浜スタジアムには黄色いユニホームを身にまとったファンが詰めかけた。クライマックスシリーズもなくセ・リーグの優勝はほぼ巨人が濃厚という状況にも関わらずビジター球場に多くの虎党が集まったのは、引退を表明していた藤川球児が迎える横浜スタジアムでの最後のカードだったからだ。

「奇跡としか言いようがない」藤川球児と大和の1打席

 試合は陽川のグランドスラムなどで序盤から阪神ペース。9回表で13-3と大量リードだった。藤川球児は9回2死、ランナーを2塁に背負った場面で登板した。ファンのみなさんはご存じの通り、結果は元同僚DeNA大和に2点本塁打を浴び、次の中井から三振を奪って横浜スタジアムでの登板を終えた。9年間チームメイトだった戦友との1打席はあらかじめ準備されていたものだとばかり思っていた。しかし実際は幻に終わっていたかもしれないという。

「本当は中井のところで行くって言われて裏で準備しててん」

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 驚いた。藤川球児が登板した時、打順は2番、この日プロ初スタメンで名を連ねていた高卒ルーキー森敬斗だった。中井は次の3番。もし森がアウトになっていればそこで試合終了。藤川球児と大和の1打席は実現しない可能性があった。しかし現実は違った。「まわってきたらいいなぁとは思っていたけど……球児さんが出てくるとなってベンチを覗いたら青山ヘッドコーチと目が合って『行け!』って」。森に代打、大和が告げられた。

藤川球児(右)と大和

 ファンはもちろん大和本人にとっても夢のような時間だった。

「ほんと奇跡よ。奇跡としか言いようがない」

 これまでの対戦成績はDeNAに移籍してからの3年間で10打数1安打。2020年シーズンに入って単打1本を放ったのみだった。「奇跡」と表現したのは、藤川の最後の横浜スタジアムでの登板であるその打席に立てたこと、さらに結果が本塁打であったこと、そしてプロの世界に足を踏み入れた18歳の前田大和には想像もつかないような出来事だったからだ。

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