サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
今回の数字:昨季メジャーリーグの本塁打数=6776本
以前の本連載で、データ解析が米国の野球界に革命をもたらしていると書いた。その目に見える最も大きな変化が、大胆な守備位置の変更だ。打者の過去の打撃データに従って、遊撃手を2塁の右側で守らせたり、2塁手を外野まで下がらせたりなど、大きく守備位置をシフトさせるのだ。これによって、かつてであれば当然ヒットになった打球が、内野ゴロとして処理されることが増えた。メジャーリーグ全体の打率は、1999年には2割7分を超えていたが、近年では2割5分そこそこまで落ち込んでいる。
となれば打者の側も、手をこまねいているわけにはいかない。対抗策として生まれたのが、いわゆる「フライボール革命」だ。ゴロを転がせば守備シフトに引っかかってしまうなら、フライを高く打ち上げて野手の頭上を越えてしまえばいいという考えだ。早速、強いフライとなる打球速度や角度などのデータが分析され、それに必要な筋肉量までが算出された。
この結果、メジャーリーグ全体の打率は下がったにもかかわらず、本塁打は急増した。2019年の本塁打数は6776本と、前年より1200本近くも増えている。きめ細かなデータ解析が極限まで進められた結果、皮肉なことに三振かホームランかの大味な野球が生まれてしまったのだ。
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source : 文藝春秋 2020年11月号
genre : ニュース