新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、春先に発出された緊急事態宣言下における移動の自粛要請は、作家という肩書きでなければいっそ「旅人」と名乗りたいくらい旅好きの私にとっては痛恨であった。ならば本の中を旅しようと思い立ち、読書に勤しんだ。しかし私はこんな時に旅がテーマの本を選んだりするほど素直ではない。旅の本を読めば出かけたくなるだけだ。ということで、手始めに昔むかし読んだ日本文学の古典を読み返してみることにした。
『お目出たき人』を読みながら、私は何度もひとりで笑い声を立て、「ちょっとなんで!?」と本に向かって呟いてしまった。人と会えないから文庫との対話である。が、文庫相手に思わずリアクションしてしまうほど、本作には110年前の青春のリアリティがあり、今読んでも新鮮で、とてつもなく面白かったのだ。語り手である「自分」が鶴という女に恋をして、勝手に夫婦になる妄想を繰り広げる。結局失恋に終わるのだが、無謀なほど自己中な主人公が最後には可愛く思えてしまう。
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source : 文藝春秋 2021年1月号