ベストセラーの回顧録を徹底分析。浮かびあがるのは自己弁護か? トラウマか?
與那覇 『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)が売れていますね。
浜崎 発売されたのは2月ですが、わずか数カ月で部数は20万部を超えているらしいですね。
與那覇 反響の大きさに焦ってか、同書は「安倍氏が顔見知りの記者を相手に語った、自己弁護の書物であり、政治学者の手になる正式なオーラルヒストリーとは異なる」とする批判もあります。しかし政治家の「証言」を割り引いて読むべきなのは当たり前で、聞き手が学者かジャーナリストかは関係ありません。
浜崎 そうですね。
與那覇 第二次政権下で国家安全保障局長を務めた北村滋氏が監修者としてクレジットされたことを理由に、この本をプロパガンダの書物だと見なして叩く人も、ピントを外している。海外首脳との挿話など、うかつに活字化すると国益を損ねかねない要素について、刊行前に然るべき筋と調整するのは政治家として当然。今回は安倍さんが亡くなっており、文責を負えないので、北村氏の名を明記しただけでしょう。
浜崎 聞き手の態度が「さすが安倍元総理!」という感じなら問題ですが、官邸一強への批判や、森友・加計問題に「桜を見る会」の政治資金規正法違反の疑い、野党へのヤジの汚さも取り上げられている。ただ、この『回顧録』に書かれていない部分があるとは私も思っていますが。
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source : 文藝春秋 2023年5月号