八月始めに、イタリアの首相レンツィが日本を訪問したという。三日しか滞在しないのに、両陛下への訪問や安倍首相との会談を始めとしてあちこちでスピーチし、京都まで行ったというのだが、日本側がこの若き首相をどう見たかは知らない。京都では、金閣寺なんかよりも、ハイテクのメッカでもある京都を見てほしかったと思うけれど。
それでも日本人は、この男の顔ぐらいは見たわけだ。それで今回は、この若き政治家がイタリアにとって、どのような存在であるかを書いてみたい。
首相になった当時は三十九歳でしかなく、それ以前の政治キャリアはフィレンツェの市長だけで、国会議員であったこともなく、ましてや大臣の経験もなくいきなり首相になったレンツィだが、それゆえか、これまでの政治家たちとはまったくちがっている。
アメリカ訪問中に、シリコンバレーに行ったときのエピソード。あの地で働くイタリア人のベンチャー・ビジネス予備軍を前に、これまでの首相ならば、同胞に職を与えるためにも帰国してくれ、と言っていたのだが、彼はちがった。
「キミたちに、帰って来てくれとは言わない。キミたちがここを選んだのは、イタリアにいては能力が充分に発揮できないと考えたからだろう。それにはボクも同意する。
しかし、イタリアは今変わろうとしている。そしてイタリアを変えるのは、首相であるボクの任務だ。だから、見ていてくれ。そして、このイタリアならばやれると思ったら、帰ってきてもらいたい」
四十歳という若さもあって、イタリアを変えるに必要な政策を前にしての態度も、これまでの政治家とちがっている。
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source : 文藝春秋 2015年10月号