一枚の名画をのぞき込んでみると……
西部劇
幌馬車といえば、アメリカ西部開拓時代――ついそう結びつけてしまうのはウエスタン映画の見過ぎで、実際にはこのようにヨーロッパでもよく使われていた。幌とは、風雨や土埃、また日光を遮るための広い覆いのことで、綿や麻などのキャンバス地(帆布)が使われた。長距離の場合は布を二重にしたり、防水のため亜麻仁油を塗ったりもしたというが、その程度では大雨や嵐には大した効力もなかっただろう。
黄金郷
『アルルの跳ね橋』
1888年、油彩、54×64cm、クレラー・ミュラー美術館 写真提供 Alamy Stock Photo/amanaimages
ゴッホは故国オランダでは何をやっても失敗続きで、心機一転、パリで頑張ったものの、やはり鳴かず飛ばず。そこで南仏アルルでゴーギャンと同居し、いっしょに斬新な芸術活動を目指すことにした。
強烈すぎる個性の2人なのでうまくゆくはずがないことは他者の目からは自明だったが当人たちはそうは思わず、ゴッホは先にアルルに到着して「黄色い家」を借り、ひまわりの絵を飾るなどゴーギャンを迎える準備をしつつ、アルルの町の風物を描きまくった。未来への明るい展望から、アルルは黄金郷に見えたようだ。
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source : 文藝春秋 2023年12月号