偉大な業績を残し、世を去った5名の人生を振り返る追悼コラム
★篠山紀信
写真家の篠山紀信(しのやまきしん、本名・紀信〔みちのぶ〕)はコマーシャル写真で出発し、ヌードを「激写」して若者を喜ばせ人物や風景の作品でも人びとを魅了した。
1991(平成3)年に樋口可南子をモデルにした『Water Fruit 不測の事態』を発表する。先駆的にヘアを撮って話題になり50万部を超えた。同年、宮沢りえの『Santa Fe』は新聞広告の効果も大きく、約165万部売れて社会現象となる。
40(昭和15)年、東京都新宿区にある円照寺の住職の次男として生まれる。芝高校時代は外交官か銀行員になろうと思っていたが、合格したのは日本大学芸術学部写真学科だった。在学中から作品を発表し、61年に広告写真家協会展APA賞を受賞して、広告制作会社ライトパブリシティに入社する。
この間、スタジオで先輩の仕事を手伝いながら、写真のテクニックを徹底的に身に付けた。68年に独立。モデル3人を連れてアメリカの砂漠で撮影した「Death Valley」は、造形的な試みで高い評価を得た。また、日本の刺青を撮影した作品はヨーロッパで「魔術的写実主義」と評される。
70年頃から若い女性の写真を撮り始め、雑誌『GORO』の「激写」は篠山の写真の代名詞となる。71年、モデルでテレビ司会者のジューン・アダムスと結婚して2人の娘を得たが、すれ違いが多くなり76年に離婚。その後、『GORO』の撮影で知り合った南沙織と79年に再婚して週刊誌をにぎわした。
ヌードや若い女性の写真が知られたが、人物や風景の作品も多い。坂東玉三郎は70年代から撮り続けて6冊の写真集を刊行した。また、80年代に刊行の『シルクロード』(全8巻)は、今の光景を介して歴史を「逆照射」する試みでファンを感嘆させた。
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source : 文藝春秋 2024年3月号