早川タケジの存在抜きに、スーパースター沢田研二は語れない。ひとりのクリエイターとの出会いが、「プリズムのように輝く」ジュリーの時代を創っていく。

 

(しまざききょうこ 1954年、京都市生まれ。ノンフィクション・ライター。著書に『森瑤子の帽子』『安井かずみがいた時代』『この国で女であるということ』『だからここにいる』などがある。)

 実質経済成長率が戦後初のマイナスになり、日本が安定成長期に入った1974年。そんな年が始まろうという1月7日、東京・日劇で「沢田研二ショー」が開かれていた。沢田は「君をのせて」を歌いソロになって2年、前年11月に「危険なふたり」で日本歌謡大賞を受賞したばかりの時で、10日までの4日間、井上堯之バンドを従えたワンマンショーであった。

 この時26歳だった早川タケジは、50年近い時間が過ぎた今も、そのステージを忘れることはない。早川が手がけたはじめての衣裳のひとつを身につけて登場した沢田に、目を見張らされたからだ。

 それは、ルネッサンス時代のドイツの画家、アルブレヒト・デューラーの銅版画「メランコリア」に描かれた物思いに耽る天使をシフォン生地にシルク印刷し、ビーズの刺繍をほどこしたブラウスで、黒版と白版を作ったうちの白版だった。黒版は、久世光彦演出のTBSドラマ「寺内貫太郎一家」で、樹木希林が「ジュ~リ~!!」と身悶える時のポスターに写っている衣裳と言えば、わかるだろうか。「危険なふたり」のために制作された一枚で、ジュリーは素肌に銀の天使が光る透けた黒いブラウスと黒い細身の革のパンツで歌って、これまでとはどこか違うオーラを放射していた。

 白版は、日劇のコンサートのために作られた変型のブラウスで、ウエストをほどくとマントのようになびく仕掛けのものであった。

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source : 週刊文春 2021年9月23日号