季節の変わり目、特に春は、新生活に向けての装いを準備する方も多いかと思います。ショッピング同行のオファーを頂いたお客様にお目にかかると、少し不安だけど楽しみが勝っている表情に、なんだかこちらまでワクワクします。

 この季節になると思い出すのは、数年前の春、町工場を経営する60代の女性から届いた一通のメールです。「亡くなった主人から工場を引き継いで以来、長い間、必死に働いてきました。服は毎日作業服。オシャレなんて考えもしない日々でした。でも、後継者ができ、これからは自分らしい服で人生を楽しみたくなりました。手伝って頂けませんか?」という内容でした。

 さっそく、普段こんな風に過ごしたいというイメージ、お人柄、お住まいの事、行動を共にするご友人や行きたい場所等のヒアリングをして「新生活応援セット」のようなひと揃えを一緒に準備しました。今までは旅行に行けず、夢はワンピースでクルーズ、と仰ったので、ワンピースとネックレス、羽織りを軸に「周りに褒められるちょっとだけよそ行きオシャレ服」を提案。それに加え、穿き心地の良いパンツや写真撮影の際サマになるトップスも(1週間の旅行服を準備すると考えると、案外お手持ちがいいラインナップになります)。お客様のこれまでのご苦労に涙しそうになりながら、精一杯提案した場面を、いまだに鮮明に覚えています。

 入学・就職・転職・引越し・セカンドライフのスタートなど、新しい環境に移る時のひと揃えは本当に難しいです。そうでなくても、単純に季節の変わり目に気分を一新させるような服を揃えたい時、予算や何をどんな風に買おうか悩まれる方も多いと思います。

 もし、無計画に目についた服を買っているとしたら、予想以上にお金を使っているかもしれないので、あらかじめ買うアイテムを決めて、予算組みをするのも一つの手です。私が決めていいなら、まだ肌寒いタイミングもあるので、厚地の春色トップス2枚、春に履く靴に合わせられるボトムス2枚、コートのあとに着られる1枚でサマになる羽織り、使い勝手のいいワンピースを買います。そして、コートを脱ぐ時期のためにアクセサリーも買い足します。春夏は汗もかくので、リーズナブルで心おきなくジャブジャブ洗える服が良いですね。対して、少しお金をかけて欲しいのは「靴」。他がプチプラだとしても、プチプラ靴は、大人の女性にはNGです。服は、組み合わせなどで見せ方の工夫ができますが、靴はそれだけでの勝負で、なおかつ、この季節は服で隠れず丸見えになるので、良し悪しがしっかり分かってしまいます。靴こそ木型や素材が合い、手入れをして長く愛用したくなるようなお気に入りのデザインがあるお店を見つけて、夏冬のセール等をうまく使ってゆっくり丁寧に集めていけるといいですね。

 上の買い方はあくまで一例なので、ご自分がどう服を着たら幸せかで、どこに予算のボリュームを置くかを決めてください。トップスが華やかな方が気分が上がるなら、上半身に予算をかけてみてはどうでしょうか。そしてもし叶うなら、一気に今年らしくなる流行のアイテムに、プチプラでチャレンジできる予算も取っておいてください。「意外とイケる!」と思ったら、次回、好きな素材感で少し価格帯を上げて購入すれば、それがあなたの「名刺服」になる事もあります。クローゼットに新しい風が吹くのでおすすめです。

イラスト 坂田優子

(しもとりまきこ (株)SPSO代表パーソナルスタイリスト。著書に『洋服で得する人、損する人』など。バンタンデザイン研究所講師や、企業・学校の制服デザインに加え、身嗜み含めたトータルプロデュースも行う。)

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source : 週刊文春 2022年3月31日号