人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。

「東京の美大を目指すんやったら、1度、東京のデッサンのやり口を見といた方がええで」

 と、高3の時、美術予備校の講師に教わり、僕は夏期講習を受けに上京したことがある。

 その間、遠縁の親戚の家に泊めて貰ったが、初めての東京にとても緊張した。

 その東京のデッサンのやり口というものは本当にあるのだろうか?

 半信半疑でいたが、講習初日、見たこともない石膏像を前に“このことか”と、思った。

 よくある胸像のブルータスやパジャントと違い、それは7分身像といわれるタイプのものだった。

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source : 週刊文春 2022年4月7日号