「一山当てて一攫千金や」
それが、谷口光弘容疑者(47)の口癖だった。かつては高級外車を乗り回した実業家。だが現在は家族ぐるみで9億円以上の“コロナ給付金”を騙し取り、指名手配犯となった。
5月30日、警視庁は光弘の元妻で会社役員の梨恵(45)、長男の大祈(だいき)(22)、次男のA(21)の3容疑者を詐欺容疑で逮捕した。
「主犯の光弘は2020年10月にインドネシアへ出国し、今も行方を暗ましています。梨恵とは今年1月に離婚していますが、犯行当時は夫婦で、Aはその時19歳でした」(社会部記者)
光弘らは、持続化給付金の申請受付が始まった20年5月からさっそく制度を悪用。捜査関係者が語る。
「光弘は東京・六本木のマンションでセミナーを開くなどして『誰でも給付金がもらえる』と謳い、個人から申請手続きの代行を引き受けていた。光弘の指示で次男が申請者の代わりに税務署を回って必要書類を集め、梨恵と長男が虚偽の申請手続きをしていた」
一家は同年9月までの4カ月の間に約1800件もの虚偽申請を乱発。結果、約9億6000万円の給付金を掠め取ったのである。
主犯の光弘は、地元・三重県松阪市内の私立高校を卒業後、事業を手広く展開してきた。友人が語る。
「バー経営のかたわら、宅地販売や造成工事などの不動産業を手掛け、太陽光発電でもかなり儲けていました。羽振りもよく、金色の高級時計とネックレスを身に付け、車も複数台所有。愛車は真っ赤なフェラーリでした」
プライベートでは、歯科衛生士だった妻・梨恵との間に三男三女をもうける“ビッグダディ”に。14年、市内に延床面積約350平方メートルの瀟洒な中古の2階建て一軒家を購入した。
ところが――。11年3月、光弘は虚偽の内容で住宅ローンを申請した詐欺事件で逮捕されてしまう。
「それを機に、メインの不動産経営が悪化。『アカン、やばい』と繰り返すようになり、『儲かるから』とビットコインにも手を出すようになった」(同前)
14年には東京・六本木に会社を設立。赤坂のクラブで飲み歩き、不動産投資や太陽光ビジネスの話を周囲に持ち掛けていたという。
16年以降は日本を飛び出し、インドネシアに進出。油田開発で一攫千金を狙ったが、19年11月、光弘名義の自宅など不動産が市に差し押さえられてしまう。
「その年、みっちゃん(光弘)と会いましたが、『経営がうまくいかん』とぼやいていました」(同前)
再び詐欺に手を染めるのは、差し押さえから半年後のことだった。長男・大祈の友人が打ち明ける。
「大祈も東南アジアに行っていましたが、仕事がうまくいかず、給付金詐欺に手を出したようです。身近な友人から始まり、虚偽申請はネズミ講みたいに凄い勢いで広がった。そのボスが彼の親父だったんです。儲けは全て親父が持っていったようでした」
光弘らの詐欺は20年8月、持続化給付金事務局が警視庁に相談して発覚。その2カ月後、光弘は共犯の家族をほっぽり出し、海外逃亡を図ったのだった。
今後はICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配される見通しだ。
source : 週刊文春 2022年6月9日号