橘玲 リベラル化した社会に敗れた男の“絶望”が暴発した

《論考》何が日本にテロを生んだのか

橘 玲
ニュース 社会

 2019年7月の京都アニメーション放火事件や、21年12月に大阪北新地で心療内科のクリニックが入居するビルが放火された事件と、今回の元首相銃撃事件には明らかな共通点がある。それは、犯人が「男」だということだ。

京アニ事件の青葉真司被告
大阪ビル放火事件の谷本盛雄容疑者
安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者

 日本だけでなく世界のどの国・地域でも、殺人や強盗・傷害などの暴力犯罪で服役するのは圧倒的に男が多い。イスラーム原理主義のテロリストも、米連邦議会議事堂を占拠したトランプ支持者たちも、ほぼ全員が男だ。

 男女の攻撃性の極端なちがいの背後には、生物学的な性差がある。「男性ホルモン」と呼ばれるテストステロンは、骨格や筋肉の発達だけでなく、性欲や競争心、攻撃傾向に強く影響する。男は睾丸、女は卵巣でつくられるが、その濃度は60〜100倍も男の方が高い(女は生理周期によってテストステロンの濃度が変わる)。

 このホルモンによって男は競争に駆り立てられ、戦争では国や家族を守るために英雄的に戦うが、激しい怒りや復讐心で暴力・殺人を引き起こすこともある。

 昨今の事件のもうひとつの共通点は、暴力の標的が第三者であることだ。

 人間は徹底的に社会的な動物なので、700万年前の人類誕生からずっと、家族や共同体に埋め込まれて生きてきた。当然、怒りの向かう先は身近な人間になる。村人30人が惨殺された昭和13年の津山事件などはその典型だ。

 この時代には、無関係の相手への凶行にはなんらかの政治的・思想的理由があった。戦前の五・一五事件、二・二六事件や、戦後の浅沼稲次郎暗殺事件、三菱重工爆破事件は、それぞれ軍部、右翼、極左によるテロの典型だ。

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source : 週刊文春 2022年7月21日号

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