「嫌われた監督」著者を変えた福留孝介の一言

鈴木 忠平
エンタメ スポーツ

 9月8日、今季限りでの現役引退を発表した中日・福留孝介外野手(45)。『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(小社刊)で、史上初めて大宅賞など主要ノンフィクション賞の“三冠”を達成した鈴木忠平氏が、中日番記者時代の福留との秘話を綴る。

引退会見では清々しい笑顔を見せた

 赤坂プリンスホテルのロビーに人影はまばらだった。私は背もたれのないソファに腰かけると、肩に食い込んでいた黒いカバンを磨き上げられた床に下ろした。重量を示すような鈍く大きな音がロビーに響いた。

 2006年3月23日の朝、私は福留孝介を待っていた。第1回ワールドベースボールクラシック(WBC)に出場した日本代表の選手たちが帰国したのは前日のことだった。凱旋の優勝報告を行った後にチームは解散し、この日からプロ野球開幕に向けて所属球団へ戻ることになっていた。スポーツ新聞の記者だった私は、東京から名古屋へ帰る福留に同行取材するためにそこにいた。

 この春、日本国内はWBCに沸いていた。メジャーリーガーのイチローが初めて日の丸を背負い、王貞治監督の指揮のもと国際大会で優勝をつかむ姿に人々は熱狂した。その渦中で福留も時の人になっていた。

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source : 週刊文春 2022年9月22日号

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