11月2日の午後5時半ごろ、神奈川の大磯港は快晴だった昼間とは様変わりして暗闇が広がり、釣り人はまばらだった。長年連れ添った妻を車椅子に乗せた男が、そっと岸壁に近づく。男は眼下に揺れる黒い水面を見つめると、車椅子のグリップに手を掛けた――。
大磯署は3日、妻の照子さん(79)を海に突き落とし殺害したとして、大磯町の無職・藤原宏容疑者(81)を殺人容疑で逮捕した。
「釣り人が『人が海に浮いている』と通報し、駆け付けた消防隊員が照子さんを発見。病院に搬送したが助からなかった。その後、車で近くの自宅に戻っていた藤原容疑者が、50代の長男に『妻を海に突き落とした』と告白。長男が警察に通報した」(県警担当記者)
逮捕時はやせ細って鋭い目つきになっていた藤原だが、照子さんの姪は声を震わせてこう述べる。
「こんなことになってしまったけど、おじちゃんは悪い人じゃない……優しい人なんです。おじちゃんはおばちゃんのことを、本当に愛していたんだと思います」
関西出身の藤原が湘南の地に来たのは、就職がきっかけだった。
大手スーパー「長崎屋」(現在はドン・キホーテに吸収合併)に社員として入社した藤原は、発祥店舗である平塚市内の店で働いていた。そこで、隣の大磯町の地主の家庭で育った照子さんと出会い、結婚した。
初回登録は初月300円で
この続きが読めます。
有料会員になると、
全ての記事が読み放題
既に有料会員の方はログインして続きを読む
※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。
source : 週刊文春 2022年11月17日号