一昨年の暮れ、若手の登竜門のはずのM-1で歓喜に咽び泣いたのは、50歳のボケと43歳のツッコミが織りなす最高にバカバカしい漫才だった。2人はいかにして敗者の物語を書き換え、「笑いの神」に愛されるに至ったのか。
日本中の芸人から嫉妬されそうな言葉だった。
2021年のM-1王者、錦鯉の渡辺隆がしみじみと言う。
「まだちゃんと(王者になったと)実感できてないところがあります。サンド(ウィッチマン)さんに1度、聞いたことがあるんですよ。そうしたら、2人は実感できるまでに4、5年かかったって。世界が急激に変わり過ぎて。そんなもんなのかなと思いましたね」
錦鯉に話を聞いたのは、ウエストランドの優勝で幕を閉じた2022年M-1決勝のおよそ2週間後のことだった。
一昨年から昨年にかけて本誌上で『笑い神 M-1、その純情と狂気』という連載をした。取材中、1つ不自由に感じていたことがあった。同連載はあくまで2001年から2010年、つまり「第1期」と呼ばれるM-1の物語だった。そのため2015年に復活してからのM-1については触れたくても触れることができなかった。
M-1は過去、18組の王者を誕生させた。その中でもとりわけ印象的な王者がいる。それが錦鯉だ。
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source : 週刊文春 2023年1月26日号