2年半ぶりに娑婆の土を踏んだ加藤。田中角栄との会食、中江滋樹からの1億円……復活に向けて水面下で動き出す。

 

 1983年6月30日、東京地裁で行なわれた誠備グループ、加藤暠(あきら)の所得税法違反事件の第59回公判。法廷には、白髪の長身男性が弁護側証人として姿を現した。

「加藤さんに、『資金は出すから、銘柄や売買の時期は任せるので株の取引をして欲しい』と頼みました」

 そう証言したのは稲川会のナンバー2で、横須賀一家総長の石井進である。石井は78年11月に韓国賭博ツアーに絡む詐欺事件で警視庁に逮捕され、当時は長野刑務所に収監中だった。この日は石井の東京の内妻も証言台に立ち、弁護側からは加藤が石井への報告用に手書きで株取引の経過を記したメモのコピーも提出された。石井は78年5月に内妻ら4人の名義を用意し、黒川木徳証券に4口座を開設。約2億円の利益をあげたことを明かした。

 加藤の妻、幸子(ゆきこ)が当時を振り返る。

「石井さんに証言を依頼し、段取りを整えて下さったのは、平和相銀の監査役、伊坂重昭さんです。伊坂さんは収監中の石井さんが内妻と面会できる場面を作ると約束し、証人出廷を後押ししてくれたのです」

 伊坂は検察OBで、特捜検事時代は「カミソリ伊坂」の異名をとった辣腕。石井の弁護人でもあり、平和相互銀行が関わったヂーゼル機器の仕手戦では、自ら司令塔となって株を買い集めた加藤の協力者だった。

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source : 週刊文春 2023年6月22日号